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第1Q


「ラグビー興味ない!?」
「将棋とかやった事ある?」
「日本人なら野球でしょー」
「水泳!!チョーキモチイイ!」

『……………』


賑やかだ。いや、騒がしいと言う方が的を射ているか。先程から10分で5mも進めていないこの状況。これは如何に、と今年此処誠凛高校に入学した男子生徒──天川冬玖は思った。


「ねえそこの君!柔道部とかどう?」
「卓球やってみない!?」
「やっぱり陸上だろ!!」
『(……そんな矢継ぎ早に言われても)』


誠凛高校は去年出来たばかりの新設校である。一学年は大体300人程度だが部活に入らない生徒もいる。第一期生がまだ2年生の今、かなりの部活が未だに人数不足なのだろう。一人でも多く部員を確保して部を画期的にしたい。そういった思いから在校生は手当たり次第に新入生に突撃して行く。そんなこれから世話になる(かもしれない)先輩方に言いたい。自分は聖徳太子じゃない。

次々と勧誘の嵐に巻き込まれる冬玖は騒がしい周りに溜め息を吐きたくなった。


「バレー部入らない?」
『すいません、もう決めてるんで』
「話だけでも!」
『いえ、いいです。それよりバスケ部のブースって何処にあります?』


キャッチセールスかと内心ツッコミながら、冬玖はやたらと勧誘して来るバレー部のマネージャーらしき女子生徒にバスケ部とはっきり伝える。入る気はサラサラないというアピールだ。女子生徒は残念そうな顔をしながらも丁寧にバスケ部のブースの場所を教えてくれたので、冬玖は早々にその場を立ち去った。


***


「あれ?志望動機はなし……?」


バスケ部のブースで机番をしている女子生徒は、たった今出された入部届を手に疑問を持った。その入部届を書いた赤髪の男子生徒はお茶が入っていた紙コップをクシャリと握り潰し、「……別にねーよ」と呟く。


「どーせ日本のバスケなんて、何処も一緒だろ」


何気なく後ろに向かって投げられた紙コップはカシャッという音を立ててゴミ箱に入った。そして最後にその様子を肩越しに見つめ、男子生徒は去って行った。


***


赤髪の男子生徒、火神大我は物足りなく思っていた。

中学2年までアメリカにいた彼は日本に戻って愕然としたのだ。バスケのレベルが低過ぎる、と。誰も彼もが自分の求めていたバスケとは程遠い、所謂「お遊びのバスケ」だった。

つまらない。
張り合いがない。

何で、こんなにも。

………違う。

自分がやりたいのは、求めているのは、

もっと、もっと。


「(もっと──)……っ!」


解消される事のない欲望に拳を握り締めていると、曲がり角から生徒が現れた。思考に耽っていた火神は突然現れた生徒に反応出来ない。生徒の方も曲がる直前まで別方向を見ていたので死角にいた火神に気付くのが遅れてしまったようだ。このままだとぶつかる、そう火神が思った瞬間、


『──っと、』


生徒は左脚を軸に鋭いターンで火神を躱す。そしてそのままステップを踏み火神から離れて体勢を立て直した。


『あっぶね……』


あまりに一瞬だった為、火神は今目の前で起きた出来事をすぐに理解出来なかった。生徒は呆然と此方を見ている彼に目を向けて言う。


『悪い、前見てなかった。怪我とかなかったか?』


無表情ながらも心配そうな様子で火神に謝る生徒。少し長めの茶髪を揺らす彼は、見た目は不良のようだが中身はそうでもないらしい。火神はハッとして生徒の問い掛けに答える。


「いや、大丈夫だ。こっちこそ悪ぃ、考え事してた」
『そうか、俺も何ともないから良い。……あ、バスケ部のブースってこっちであってるか?』


どうやらこの生徒はバスケ部希望のようだ。確かにあれはドライブからのフェイダウェイだ。火神は先程の彼の動きを見て自分の中の何かが熱くなるのを感じた。

これは、アメリカにいた頃の───


「ああ、すぐそこだ」
『サンキュ』


───闘志。まさにそれだった。

ひらりと手を振り去って行った生徒の後ろ姿。
そこからはある「独特の匂い」がした。

バスケの本場で培われた勘が、そう言っていた。

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