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「、な…あ……」


深紅の血に濡れた漆黒の青年、プルースの一方的な殺戮が終わり、残るは「ヒトラーの権化」ただ一人。腰掛けていた椅子から転げ落ちた彼は完全に腰を抜かしていた。


『時間の無駄だったな』
《まったくだ》


先程までの気迫は雲散霧消し、気怠げな顔で携帯に向かって話し出すプルース。そこから聞こえるテノールの声も溜め息混じりだ。

「ヒトラーの権化」は後悔していた。自分の余りに浅はかな考えに。それを過信していた事に。

目の前の青年はただの反逆者などではなかった。支配者を戦慄させ、伝説を生んだ「反乱の指導者(スパルタクス)」だったのだ。

だがそれ程までに自尊心を砕かれても尚、「ヒトラーの権化」は信じて疑わなかった。……自身の勝利を。だから叫ぶのだ。


「『我々は戦争に負ける筈がない!!』」


自分の通り名の由来であるアドルフ・ヒトラーが嘗て言ったように。


「『我々は戦争に負ける筈がない!我々には、』」
《「三千年間一度も負けた事のない味方が出来たのだ」》


ヒステリックに叫ぶ「ヒトラーの権化」の叫びを遮り、テノールの声が言葉を続けた。


《「我々は常に先制攻撃を掛ける!」》
『「フランクリン・ルーズベルトはウッドロー・ウィルソン同様の狂人だ」』


プルースもテノールの声の後に次いで演説を繋げる。「ヒトラーの権化」は、震えながらそれを眺めるしかない。


《「奴はまず戦争を煽動し、」》
『「次に戦争の原因を捏造し、」』
《「そして汚らわしくもキリスト教の偽善の外套を身に纏って、」》
『「自分の攻撃が正当なものだという証人として神の名を呼びながら、」』

《「ゆっくりと」》
『「しかし確実に人類を戦争に導いてゆく」』


プルースとテノールの演説。それはまるで聞く者を惹き込み、優れたプロパガンダの才能の持ち主であったヒトラーを体現しているようであった。


《「諸君!」》
『「諸君は皆遂に救いを見出したと思う」』
《「一つの国家が、その真実と正義の歴史の中で例のない恥知らずな扱いに遂に抗議する措置を取ったのだ」》
『「日本が、日本国政府が、この男と何年もの交渉の末、」』
《「遂に三文の値打ちもないやり方で嘲弄される事に飽きた事実は、」》
『「ドイツ人の全て、そして世界の全ての謙虚な人々を深く満足させるものである」──以下省略』


パン、と手を叩きプルースとテノールの声は演説を止めた。彼らの演説にまさしく惹き込まれていた「ヒトラーの権化」はハッと我に返る。

その名の通り、彼は「アドルフ・ヒトラーの生まれ変わり」として今まで生きて来た。その自分が、目の前の高々二十歳前後の青二才が行う演説に聞き惚れていたなど……!


『テメェは自分をヒトラーだとでも思ってんのか?』

『子供を使い、』

政治家(おとな)を殺し、』

『自分が支配者にでもなるつもりだったのか?』


床にへたり込んでいる「ヒトラーの権化」に視線を合わせるように、プルースもまた彼の目の前でしゃがんだ。全身血で濡れていた為気付かなかったが、彼の瞳は、血のように…紅い。


『勘違いしてんじゃねーよ。その程度(・・・・)で人の上に立とうなんざ反吐が出るね』
「は…はは……」


氷のように冷たく、血のように紅い。そんな瞳に見透かされ、「ヒトラーの権化」は渇いた笑い声を漏らす。

嗚呼、


「Es ist aus...」
(お仕舞いだ…)


Der Krieg ist verloren.
戦争は負けだ。

Aber wenn Sie, meine Herren, glauben,
dass ich deswegen Berlin verlasse,
irren Sie sich gewaltig!
しかし諸君、私がベルリンを捨てるだろうなどと思っているならば、それは途轍もない間違いだ。

Eher jage ich mir eine Kugel in den Kopf!
そんな事をするくらいなら、私は自分の頭に銃弾を打ち込む。


「Tun Sie, was Sie wollen...」
(君達は自分のしたいようにし給え…)

『...Ich mache es auf einem Befehl des Pr*sidenten.』
(…総統の仰せのままに)


プルースは手にした三日月型の刃を「ヒトラーの権化」の頭に振り下ろした。ザクリ、と頭蓋を割る鈍い音が響き、血潮が辺りを濡らす。「ヒトラーの権化」は最後の躯となり、この部屋で息をするのはプルースのみとなった。


そうして、暗殺集団「ヒトラー・ユーゲント」は壊滅、仕事を終えたプルースは元来た道を通り帰って行くのだった。


『ああ、最期に一つ』


言い忘れていたと言わんばかりにプルースは屋敷の門の前で振り向く。


『俺は「剣奴(スパルタクス)」じゃない』

『「処刑人(プルース)」だ』


ひらりと手を振り、プルースは今度こそ元来た道を帰って行った。


《──プルース》
『──ああ』

《『返り血を(すす)ぐ鬼雨だ』》


外では静かに、雨が降っていた。


*****

処刑人(プルース)→双子兄
サポートのテノールボイス→???

別HPにて掲載する予定だったお話、要するにボツ話です
最初にも書きましたが、原作キャラが未登場というね……本当は出て来る予定だったんですが
この話が元になって、別HP(共同サイト)の管理人とリレー小説を始めました(今は停滞してます…申し訳ない)

「アンドロマリウス」は結構マイナーというか、全3巻という比較的短いお話です
でもあの世界観がとても好きで……
表現が中二病全開だったので(失礼)此方もそれに乗っかり中二病を目指してみました。通り名とかね!!
でも私にそういった(・・・・・)ネーミングセンスはなかったようですわかってましたが

あとめっちゃヒトラー推してましたが、特にファンとかではないです。ハイ
今回は双子兄しか登場してない……と見せかけて、実は携帯の主が双子妹だったりするという裏設定が
……薄々気付いてた感じですかね
その辺の裏設定はリレー小説を連載するにあたって詳しく考えました
それが活用される事はこのHPではないです
だってこのネタ、続きませんから←

ここまで読んで下さった方、ありがとうございます
長々と失礼しましたー

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