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「さあ、どうだ?」
『……………』


青年、プルースは何も答えない。ただ無表情に「ヒトラーの権化」を見据える。その様子を「ヒトラーの権化」は彼が必死に平然を装っていると思い、益々笑みを深めながら辛抱強く待った。そしてプルースは、


『……ハァァァ…』


溜め息を吐いた。

「ヒトラーの権化」は唖然とする。プルースの目は明らかに此方を見下しており、呆れた表情を露わにしたからだ。


『馬鹿だ』
《馬鹿だな》
『救いようがねーよ』
《それは元からだろう》
『そうだったな』


少しとは言え身構えて損した。そんな事を携帯と話しながら残念なものを見る顔で「ヒトラーの権化」を罵倒し始めるプルース。それに「ヒトラーの権化」が怒らない筈がなかった。こんな、青二才に───!!


「──ッ殺せ!!跡形もなく!!消してしまえ!!」


その言葉を合図に、部屋の到る所に潜んでいた所謂「成功作」の暗殺者達が一斉にプルースに襲い掛かる。その動きは先程の「失敗作」の暗殺者とは桁違いに速く、そしてそれぞれがそれぞれの急所を的確に狙っていた。プルースは成功作達の動きの速さに反応が遅れ、気付いた時には彼らの握る得物が目の前に迫っていた。


『────』


薄汚れたランプの明かりで鈍く光る刃。
敵を殺す為だけに鍛えられた暗殺者達の虚ろな目。


それら全てが…止まって、見えた。


映画フィルムやビデオテープなどを1齣ずつ区切って映写、再生したように、周り一切合切の動きがゆっくり…ゆっくりと、変わって行く。

そんな「齣送りの時間(スロウリーワールド)」。

プルースの目には鈍く光らせた刃を此方へ振り下ろそうとする子供達の動きを眺めながら……


《──プルース》
『──ああ』


三日月型の武器を投げた。柄に巻いてある滑り止め用の布以外の全てが漆黒のそれは、くるくると廻りながら次々と暗殺者達の腕を、脚を、胴を…頸を、切り離して行く。


その悲鳴は耳を劈き、その光景は目を疑う。

瞬きの間、時が止まる事はなく。
それはそれは一瞬の(はじまり)
それはそれは永遠の(おわり)

足掻き、喘ぎ、哀願する。
しかしそれらは全て無駄な事。


刮目せよ、我は処刑人。
名を借り、地を駆り、悪を狩り。

血濡られし刃を携えた、死を告げる者なり。


三日月の刃がその身を裂くまで。
我はお前を追い続けよう。


《覚悟は如何だ?》
『答えは訊いていないがな』

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