猟犬の声がざわめく森の中に響き渡る。
一刻も早く逃げなければ自分も両親や兄弟たちのように殺される。しかし人間が仕掛けた罠に右足を挟まれて身動きができない。
小さな白くて丸い獣は、必死に足首に食い込む銀の歯から逃れようともがくが、もがけばもがくほど、血が溢れ出ては激痛が増すだけだった。
思えば両親や兄弟たちを殺されたのも、自分の失態なのだろう。自分が人間に近付きすぎたばかりに、巣穴の場所がばれてハンターに襲撃されたのだ。
獣が後悔するより先に、獣よりも何倍も大きな猟犬が茂みから飛び出てきた。それに続き、銃を持った厳つい男の人間のハンターもぜいぜいと息を切らしながら現れる。
「まーったく!お前の兄弟たちはみーんなこいつを見て大人しく狸寝入りしてくれたのによ…。お前ときたらちょこまかと逃げ周りやがって!」
猟犬は低く唸りながらも、獣の滴る血の匂いに涎をだらだらと垂らしている。獣は恐怖から声を上げることすら出来ない。
「だけど心配するこたぁねぇぜ、一瞬で終わらせてやるからよぉ…。天国の家族にもすぐ会えるぜ」
カチャ、と銃口が獣の小さな額に押し当てられ、獣は思わずぎゅっと目を瞑る。その時だった。
「ねぇ〜おじさん、なんで猫なんていじめてるの?」
その場の空気に似合わない少年の声に、全員がはっと声のする方を見上げる。
すぐ側に生えている細い木にその少年はいた。
少年は小柄で細身のお坊ちゃんというような出で立ちで、いつからそこに居たのか、枝に座り込んで頬杖をつきがら此方を見下ろしていた。
「いいかこいつは猫じゃねぇ。珍しい白いタヌキだ。こいつの毛皮は大量の禁貨で取り引きできるくらい高級なんだよ。こいつは俺様の獲物だ。餓鬼は邪魔するんじゃねぇ、とっとと帰んな!」
「別に邪魔しようなんて思ってないさ」
少年はハンターと捉えられている獣の間にサッと移動する。
あまりの速さに、ハンターは少年の動きを目で追えず、猟犬はワオン!と声を上げた。
「おじさん、禁貨集めてるんだ…っていうことは、バンカー?」
「なるほど、てめぇもバンカーか…!」
ハンターが銃を構えると、弾丸よりも先に猟犬が少年に飛びかかる。少年はその細い手から、剣のように爪を伸ばすと、軽く猟犬を弾き飛ばした。
猟犬の腹部からの血飛沫の匂いに、獣の頭はくらくらする。
「てめぇ…!」
""ドォン!!""
銃声が轟く。
獣は薄れていく意識の中、少年の笑い声と男の叫び声を聞いた。
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