“ちょっとした悪戯”

朝焼けのオレンジ色の光が窓から注ぎ込まれて来た。
ふるり、とユウは一度睫毛を震わせ、ゆっくりと目を開いた。
朝特有の水の匂いが混じる爽やかな空気を吸い込み、身を起こそうとしたが。
太くたくましい腕に後ろから絶妙な力加減でホールドされており、かろうじて寝返りができる程度の自由しかなかった。
直接触れる肌に胸の奥がちり、とこそばゆいような感覚に襲われたのは、昨夜の熱がまだ冷め切っていないからだろうか。

ぐるりとユウは身体を回転させ、腕の主…メガトロンの方を向いた。
当の本人(人ではないが)はまだ電源が入っていない…スリープモードから醒めていないらしく、ヒューマノイドでも時折聞こえる電子音や回路が回る音は一切しない。

いつもの爛々と光る無機質な赤い瞳は瞼に隠されており、男性にしては長い睫毛が影を落としている。
自分だけが見る事を許された穏やかな寝顔に、くす、と笑いを漏らすと、ユウは傷跡が大きく残る胸元にそっと唇を寄せた。

(…ちょっとだけ。)

悪戯心が擽られたのだ。
そう、内心で言い訳をしたユウはちゅ、とメガトロンの胸元に吸い付いた。続いて角度を変えてもう一度。
唇を離すと、胸元にはハートの形をした赤い跡が残った。

メガトロンが元の姿の時にはどうがんばってもできないそれに、ヒューマノイドならできるのねぇ、と半ば感心したように見ていたユウだったが、すぐに満足げな笑みを浮かべた。

「朝からずいぶんと俺を煽ってくれるな、ユウよ。」

唐突に降ってきた低い声にびくりと肩を跳ねさせると、ユウはメガトロンの顔に目を向けた。

いつの間にか閉ざされていた瞳は鮮やかな赤色を宿し、形のよい唇が弧を描いている。

「え、あの、ちょっとした悪戯、というか…」

「ほう。ちょっとした悪戯、とな。」

今更ながら自分の大胆な行動に顔を赤らめてごにょごにょと言い訳を並べたルナ。
普通に考えればキスマークを付けられる感覚で目を覚ます、と予想できそうなものだが、そこまで考えが至らなかったあたり、自分はまだ寝ぼけていたのだろうかと頭の片隅でそんな事を思った。

その様子をさも愉快そうに見つめていたメガトロンは赤色に薄く染まったユウの耳をぱく、と咥えた。
ぴく、とユウの身体が震えた。
つ、と触れるか触れないかの力でうなじを撫でれば分かりやすいほどの反応。

未だにくすぶっている身体の奥の熱がゆっくりと表に出てくるような感覚に、ユウはぞくり、と背筋が粟立つような感覚を感じた。

そして。
がぶり、と肉が食いちぎれない程度の力でメガトロンがユウの首筋に噛み付いた。

「……ッ!?」

突然の痛みにユウは身体を強張らせた。
すぐに離されたが、噛まれた箇所がじんじんと痛みと熱を放ち始める。

「ちょ、突然何するんですか…!」

「なに、“ちょっとした悪戯”だ。俺もお返しをしてやろうと思ってな。」

にやりと唇の端を歪めて笑うメガトロン。

「“お返し”の大きさが釣り合っていません!」

「ならばお前も釣り合うと思う分だけ付ければいい。」

器用に口の端を片方だけ歪ませて笑うメガトロンを涙目で睨みつけながら噛まれた箇所の周辺を擦る。

首筋にくっきりと付いたであろう歯形は絆創膏では隠しきれないだろう。
包帯を使えば隠せるかもしれないが、濃い色の軍服をきているのに包帯なんて物をすれば目立つので隠す意味がなくなってしまう。
幸い、今日は非番だが、明日は出なければならない。
明日までに消えるのを期待するのは難しいだろう。

だが、すでに付いてしまったものは仕方がない。

「…メガトロン、あなたが付けた歯形に対して、私はいくつハート型のキスマークを付ければ釣り合うと思います?」

ぎゅる、と音を立てて少しの間メガトロンが動きを止めた。
そして出てきた言葉は、

「そうだな。…お前が満足するまで、だな。」





(ユウ、お前それ…。)
(はい、お察しのとおり宇宙のオトモダチに付けられました。これ以上は聞かないでください、レノックス少佐。)
(お、おう…。)