ぽす、と何かが背中に当たった。
否、当たったのではなく、抱きつかれた。
破壊大帝たる己にこんなことができるのはたった一人しかいない。
「…ユウ、何をしている。」
返答は、返ってこない。
代わりに、縋るように腹にまわされた腕に締め付ける力が増し、すり、と背に額が擦りつけられる感覚がした。
自分たちにはない暖かなぬくもりと、柔らかな感触に、不覚にも内部回路が掻き乱されたが、すぐにメガトロンは思考を切り替えた。
「…メガトロンは、私が死んだ後、どうするつもりなのですか。」
というユウの声が聞こえてきたからだ。
小さくか細い声で問われたそれは、ずしりとスパークに沈みこんでくるような錯覚を覚えるほど、重さをはらんでいた。
トランスフォーマーと、人間の寿命の違い。
既に何百万年もの時を過ごしたメガトロンに対し、ユウはたったの二十年ぽっちしか生きていない。
それでも、どうがんばっても先に世に別れを告げるのはユウなのだ。
「別に、どうにもせん。お前がこの世からいなくなったとしても、俺はそのまま生き続けるだけだろう。」
背に抱きついていたユウを引き剥がし、抱き上げるとメガトロンはそのままソファに腰を下ろしてこともなげに答えた。
メガトロンの膝に跨る体勢となったユウは、その肩口に顔を埋めた。
「…じゃあ、私がいなくなったら…、私のメモリーは消してください…。」
「メモリーは消さん。」
間髪を入れずに出されたメガトロンの声に、ユウはえ、と声を漏らした。
「メモリーは俺のものだ。消すかどうかは俺が決める。」
きっぱりと言い放ったメガトロンの言葉に、肩口から顔を離したユウは一瞬だけぽかんとした顔になったが、すぐにまた歪めてしまった。
「でも、私はあと数十年しか時間がないんですよ…。メガトロンは、私がいなくなっても…まだずっと長い時間があるんですよね。それ、って…」
あとは言葉にされなかった。
静かに涙を流すユウを見下ろし、メガトロンは小さく排気をした。
もちろん、メガトロンだってこの問題について考えなかったわけではない。
長い時間を過ごし、一度は死んでよみがえったこのボディだが、寿命というものを迎える時期はまだはるか先にある。
ユウがいなくなれば、その長い時間を寂寞に包まれて過ごすだろうということも、理解している。
だが、それすらも承知の上でユウという人間と想いを通わせることを決めたのだ。
そんな大切なメモリーを消せるわけがないし、今更それをどうこう言われる筋合いもない。
(そういえば、なぜユウは突然こんな行動に出た?)
少し前までは普通にしていたはずだが、と部屋の中にアイセンサーを巡らせれば、先ほどまでユウが読んでいた本に目が止まった。
インターネットを通じて調べれば、「寿命でパートナーを亡くしたイキモノの、その後の話」という何とも俗っぽいあらすじがヒットした。
一瞬でユウのこの行動に至るまでの経緯を理解したメガトロンは、もう一度小さく排気をすると、ぽんぽんと彼にしては珍しく優しい手つきでユウの頭を撫でた。
きょとんと自分を見つめるユウの目尻に、触れるだけの口付けを落とすと、メガトロンは静かに耳元でこう囁いた。
「お前が先にいなくなる事などとうに理解した上でこうしている。お前は俺の隣で笑って過ごすことだけに努めていればいい。」
(お前が隣にいないことに飽きたら、俺もスパークを壊すなりしてみようか。)