三


「おっ、きたきた。ナマエに頼まれてた分、これね」

昨日頼んでおいた商品を紙袋にまとめてくれたらしく、サザンカが二つほど渡してきた。
「こっちが日用品、こっちは他色々ね」と言いながら中を見せてくれる。ざっと確認して満足げにナマエは頷いた。

「サザンカさんありがとう。これで当面やっていけるよ…」
「歳近いしタメでいいよ、むず痒い」
「ん、ありがとう。いくらだった?」

値段を確認している最中、アメが袋の中に気になるものを見つけたのか、軽く手を引きながら中身を指差す。

「ナマエ、これなに?」
「これ?プルプルゼリーの素。明日のおやつに作ろうね」

おそらくいまいち分かっていないだろうが、おやつという言葉に反応してアメが飛び跳ねた。
頭を撫で、あらかじめ凡その目安をつけて用意していた札をサザンカへ渡す。
アメが農作しないと到底作れない料理もある程度あるが(外から買うと当然価格が高くなる)、逆に買わないと作れないものある。
ナマエは牛乳と素を混ぜるだけでデザートができて、小さな子も作れる画期的なこれを一番に買うことにした。

「いいなあ、アタシにも分けてよぉ」
「サザンカは自分で作れるでしょう?」
「ケチ」

軽口を叩きながらナマエ袋を受け取った。自分以外が作った物の方が美味しいという言葉に、本当にその通りと返すとじゃあ今度アタシん家で作ろうと言われ、それは作って貰ったに入るのかと笑った。
アメの手を握り直しさあ帰ろうと足を踏み出す。

「わっ!」「へっ!?」

丁度一歩踏み出したところで、危うくぶつかりかけた。
アメに何ともなかったことを確認し、ナマエは目の前の人物に謝罪した。


「ユータさんごめんなさい、うっかりしてて…」
「いやいやお互い様だよ、気にしないで。アメも大丈夫だった?」
「うん」

元気に返事をするアメの頭をユータがわしゃわしゃと撫でる。勢いはあるのに優しい撫で方に人が出るなあとナマエは思った。比較対象は言わないが吉だろう。

「あっ、そうだ!ユータさんメモ帳ありがとうございました。すごく助かっちゃったので」
「それは良かった。困ったことがあれば何でも言ってよ」

ナマエは改めてもう一度礼を伝えた。
ニコニコと笑顔の絶えない彼は人の良さが全身から滲み出ているとナマエは思う。
何を買いに来たのかと当たり障りのない世間話をしていると、アメが嬉しそうに声を上げた。

「プルプルゼリー!」
「プルプル…ゼリー?」
「あれ、ユータさんご存知じゃありません?」

ナマエは袋から商品を取り出し、パッケージを見せる。
どうやら思い当たる事がないようで、彼はこんなものがあるのかとじっくり手に取って眺め出した。
よく分かってないながら、さっきのナマエの説明で覚えているところをアメが途切れ途切れに伝え、ナマエは間の飛ばしたところを彼に伝える。
だんだん正体がわかったようで、ユータは子どものように目を輝かせた。

「へえ!!!こんなものがあるなんて知らなかった!俺もサザンカのところに行ってくるよ!」
「あ…」

裏へサボりに行ったサザンカを見たばかりのナマエは苦笑した。
きっと吸い始めたばかりの煙草を邪魔され、驚いているであろう彼女の声が聞こえた。

***


二週間後。
ある程度村のみんなが所持している機材も見終わり、あとは部品が必要で待っている家のみとなる。
見回りの最中、サザンカだけは機材の点検ではなく製作物の意見交換となり彼女の家で一日を消費してしまった。
何はともあれひと段落が付き、何なら空いた時間で次の仕事が決まりそうでナマエはようやく落ち着けると安堵する。

村にも慣れ——何だか少し夜の庭が騒がしかったが——夕方以降は時間が取れるようになってきた。
ようやく余裕ができたし、アメと一緒にロッカクさんの店へ夕食を食べに行くかと出かける。
住民皆と同じ時間になり、アメを子どもたちの輪へ入れナマエはカウンターに座った。ロッカクさんが椅子が足りないと増やしてくれたようで、自分たちの座る席があることにホッとしたのは口が裂けても言えない。

「おや、ナマエさんじゃないですかァ。こんなところにいるなんて珍しい」
「こんなところですみませんっス」
「ちょっとコンノさん…そろそろ他の人が作った料理が恋しくなっちゃって。ロッカクさんに以前いただいたおやつが美味しくて私すごく楽しみにしてたんですからね」

ついこの間、昼にヨウを預かったお礼にと差し入れをもらい、アメと二人で美味しい美味しいと食べた。
そのこともあり、ようやく楽しみにしていた食事にありつけると期待値が上がる。
あんまり期待せんでくださいよとロッカクが奥へ下がり調理を始め、隣に座っているコンノは機嫌良さそうに食事を口に運んでいる。

ナマエにとって意外だったのは、ここ数日でコンノとかなり仲が深まったことだった。
パソコンを借りることとなって毎日部屋に伺うのを申し訳なく思いつつ、彼のコレクションの話に触れるとコンノは流れ出るようにウンチクを垂らす。
ナマエのオタクではあったし、その熱量もわかる。
彼が思いの外説明上手でナマエつい聞き入ってしまえば気に入られるまではあっという間であった。

今では八つ時に休憩にと少し良い紅茶を淹れてくれる。
まさかこんな高待遇受けれるとは思っていなかったし、部屋を出て帰る際にリンの顔を見れば、何とも言えない面をしており彼女にとっても想定外のようだった。

「にしても保護者が板につきましたねぇ」
「まあ元々子どもを見るのは好きですし」
「まだお若いんですし、彼らを見習ってはどうです?」

そうして指差す先には、へべれけになっているキスケとそれを揶揄うサザンカの姿があった。
ナマエはどちらかといえば酒には強いが、あんな馬鹿な——後先考えず飲むようなことをした事がないなと苦笑を漏らした。
子どもたちの情操教育的に問題ないのかと少し疑う程度には荒れている。

「ほら、アメさんはリンさん達が見ていますし、アナタも行くべきですヨ」

そう言って背を押され、絶対自分で遊んでいるだけだろと思いながらも彼らの席へと向かった。
席に着くなりキスケはニヤリと、サザンカは目を輝かせる。ああ完全にターゲットになっているなと思いながら、キスケが注いだ酒を受け取った。

「ったく若いモンはよぉ、大人しく酒受け取れってんだァ」
「はーやだやだ酔っ払いめ」
「ハハ…いただきます」

飲み込んだ酒が軽く喉を焼き、久々のアルコールにナマエは気分が良くなった。
まさか未成年の、しかも間借りしている家で酒を飲むわけにはいくまい。実は少し我慢しているところもあった。

「お、いける口じゃねえかあ!ほらもう一杯!」
「ちょっと勘弁してください、そんなにガバガバ飲めないですよ」

「こっちのお酒もあげる」
「ちょっとサザンカ、ちゃんぽんさせようとしないでってば」

「もっと飲め飲めえ…」
「ねえキスケさん寝てない?」

結局一番にキスケが酔い潰れ、程よく酔いが回ったところで解散となった。
キスケを起こそうとしたアメが、酔い潰れた彼に押しつぶされそうになってナマエが慌てて支える。
ロッカクが送るから帰っていいと言われたものの、付き合わせた(?)自覚があったので、ふらふら足ではあるものの歩けるキスケを支えながら帰路に着くこととなった。


「アメ、玄関開けてもらっていいかな…」
「まかせて」

大きく頷いていそいそと扉を開けるアメ。田舎だからなのか鍵のかの字もなくナマエは呆れた。
キスケを玄関に寝転ばせ、いざ立とうとしても肩に回った手が中々外れない。
この酔っ払いめ…と思いながら腕を何とか押し退け、せめてもの情けとして羽織をかけてやった。

「ぐー…」
「もう手がかかるんだから…アメ、帰ろっか」
「ん」

振り向くとアメがこちらへ頭を突き出す。
お手伝いのお礼に頭を撫で、手を繋ぐ。

「キスケさん、ちゃんと布団に入ってる…わけないよねえ」
「うん」

アメの即答にナマエは笑った。




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ツユシグレ