06

愛を求めて死にたかった私と、愛を失って死にたかった彼女。

何がどう作用したのか分からないけれど、入れ替わった、ということなんだろうか。私の精神がここにあるのだから、彼女の精神もまたどこかにか、もしくは私の中にあるのだろう。私の代わりに、彼女が私の両親達からの愛を受けてくれて、その傷が少しでも癒えればいいと思う。
大まかに状況が掴めると、先ほどの女性からの話も繋がった。
彼女達は何かしらの親戚で、あれは天涯孤独となってしまったこの子のこれからの話。話の中で一緒に住まないかと言ってくれてたから、この子を思ってくれているんだろうと思う。そう、願う。
何かあったら、と渡された連絡先のお陰で女性の名前も分かった。リビングの固定電話から書かれた番号に電話をかけると、優しい声が鼓膜を刺激した。

『何かあった?』
「あの、先ほどのお話、お願いしてもいいでしょうか」
『さっきの……?』
「一緒に、住むという……」
『そりゃあこちらはもちろんよ。でも、そうなるとその家を離れることになるけれど……』
「それは、仕方ないです。私1人ではどうにもならないですし、維持費ばかり掛かってしまうし」

そこまで言って、しまった、と思う。中学生の子供がそこまで冷静に考えるものだろうか。怪しまれやしないかと思ったけれど、あまり気に留めた様子もなくおばさんは「嫩ちゃんが大丈夫なら、いいと思うわ」と言ってくれた。話の中で、「兄さんの代わりに」という言葉が出たのでおばさんは恐らくお父さんの妹さんのようだ。一通りの流れを話して、電話を切った。
ふう、とひと息ついてから、また部屋に戻る。日記を開いて、まっさらなページを前にペンをとった。

初めまして。
あなたも嫩というんですね。
失礼ながら日記を拝見しました。何も知らない私に言葉にできることは無いけれど、あなたの幸せを願っています。
いつかこの夢のような出来事が終わった時のために、日記を書こうと思います。あなたの、日課のようだったし。
あまりにも周りのことを知らないから、私はおばさんについて行って、この家を出ることに決めました。
勝手に決めてしまってすみません。ご友人達との縁が切れてしまうかもしれない、ごめんなさい。
私なりに、生きてみます。

「……こんなもの?」

私よりもひと回り近く年下だった女の子。これからきっと楽しいことがいっぱいあっただろうに、一瞬でいろんなことが変わってしまって。その年齢も考えると、私のように割り切れることはないのかもしれない。お腹も多分痛いよね。ていうか、私の身体が死んでないといいな。私の両親が戸惑う彼女を優しく包んでくれると、いいな。
そこまで考えて、ポタリと涙が一粒落ちた。
よくよく考えたら、そうか、私も、愛を失ったのだ。求めたばかりに、失った。与えてくれていた無償の愛を、私は、自ら捨ててしまった。自業自得。
馬鹿でごめん。お母さんごめん。お父さんごめん。友人達、ごめん。大好きだったよ。愛してた。不器用なりの愛だった。そして、愛してくれて、ありがとう。いつかまた、会えたなら。もし会えることがこの先なくても、あなた達の幸せを願っています。