08

涙が零れる。
ぽたり、ぽたり。
それは止まることを知らない。
初めて日記を読んだ日以来、泣かなかった私は、その姿を目にした瞬間に、泣いてしまった。







「初めまして、蕪木嫩といいます。宜しくお願いします」

淡々と、少しだけ淡い笑みを浮かべて黒板の前で自己紹介をする。クラスの人達は素直ないい子ばかりなのではという印象。おふざけ担当と思しき男の子が「よろしくなー!」と立ち上がって、先生が「よろしくするのはいいことだけど座れー」と注意し、他の子達が笑ってた。うん、明るい。

「初めまして、よろしくね」
「うん、こちらこそ。蓮巳亮っていうの、てきとーに呼んで」

隣の席の男の子もいい人そうだった。良かった。
始業式と同時というクラス替えのタイミングで入ってきた私は特にあぶれることもなく、そこそこ普通に話す友達も出来て、少しだけ楽しいと思い始めていた。放課後までは。

始業式の日ということもあり、授業という授業はなかった。みんなの自己紹介をして、クラスでの係決めと委員会決めがメインで、教科書を配布されて、1日が終わる。一緒に帰ろうというお誘いもあったけれど、初めての学校ということであちこち見て回ることにした。ちなみに数学係りと図書委員になった。

ぷらぷらと色んな教室を見て回る。職員室の横に応接室、校長室があり、どこもかしこも綺麗にされていて、この学校は美化に力を入れているのかなという印象。歩いて回っていると、既に部活の始まっているところもあるらしく、体育館と運動場には生徒が集まっていた。別段、普通の学校のようだ。一通り回り終えて、帰るために鞄を持って外に出ると、校庭の隅に植わっている大きな桜の木が目についた。満開の桜が、風が吹く度にはらはらと舞っていてとても綺麗で、思わずそちらに歩み寄る。ひらひらと落ちてきた花弁を掴もうと手を伸ばした瞬間、ぶわりと一際大きな風が吹いた。結っていない髪がばらばらと風に靡いて、一瞬、目を瞑る。

「じゃーな、ダメツナ!」

風の中、耳に入ってきた言葉に目を思わず見張る。まさかと思った視線のその先に、クラスメイトに肩を叩かれて狼狽える背中が見えた。
ツンツンとしたハニーブラウンの髪と、男の子にしては小柄な身体が、大好きな彼と重なる。叩かれた反動で鞄を落とした少年が、拾うために屈んで横を向く。
うそだ。
うそだ。
その横顔は。

「……っ」

沢田綱吉、その人だった。