親友と大好きな漫画の話をして、学校をのんびりと終えて、そんな当たり前の1日の終わりに、私は私の世界を一変させるものと出会った。それは一匹の黒猫で、木に登り降りれなくなった猫をなんとか降ろすと、その猫はチェーンを通し首にかけていた私の大事なリングを奪って行ってしまった。勿論追い掛けるよ、そりゃあね。来たことも見たこともない道とも言えない道を進み、私は、彼と出会った。
柔らかな金髪と黒いマントを靡かせる彼は猫から私のリングを受け取ると、それを私に返して「待っていたよ、お前を」と口を開いた。
嗚呼、いや、そんな馬鹿な。私は頭がおかしくなったの? 夢を見ているの? いるはずの無い彼が、目の前にいて、私を待っていたと言う、なんて。混乱する私に苦笑を浮かべながら、彼は言葉を続けた。
「時間が無い、単刀直入に言おう。巻き込んでしまってすまない。しかし、これは運命だと、あいつは言った。必ず訪れる、運命だと」
「え……は……?」
「お前にしか出来ないのだと、全てお前の為の布石だったと」
「ちょっ、一体何のことを言ってるんですか!?」
「時間が無い、聞け」
「……」
「]世を頼む。それと、あいつから“自分の思うようにやりなさい”と」
「え?」
「大丈夫、お前ならやれるさ」
至極真面目な顔をしていた彼が、私の頭をくしゃりと撫でた。頑張れ、と笑う彼に、混乱しながらもときめいて何も言い返せなず、たじろぐ私の頭から彼の手が額に移動する。首を傾げる前に、「武運を祈る」と呟いた彼が目の前から消え、ガクンと力が抜けて意識を手放した。
どういうことだ、どういうつもり? 何が起こってる? どうして、漫画の世界の人物である、彼が、プリーモがここにいるの? 私を知ってるような話し方をするの? 訳が分からない。
ただ、何事もなく元の世界に戻れることを、願ってた。
***
「綱吉、朝だよ」
「わっ! ちょっノック無しで入ってくんなって!」
「え、反抗期? かなしいなあ」
「違うから!」
「お前らそんなにイチャイチャしてる時間あるのか?」
「「あ」」
「先に下行っとくからね」
「う、うん、すぐ行く!」
私の毎朝の日課は、綱吉を起こし抱き締めることから始まる。言っておくけれど、もちろん変態ではない、ただ純粋にツナの可愛さにキュンキュンする。
プリーモのところに飛ばされ、次いで気を失って、気付いた時にはまた別の場所に飛ばされていたらしい。雨の中脇道に倒れていた私を心優しいツナ様々はリボーンの忠告も聞かず連れ帰ってくれたらしい。プリーモが]世を頼むと言ったあたりからどことなく分かってはいたけど、目を覚まして目の前にいる彼らに思わず二人の名前を呟いてしまったのがミスだった。
そりゃあ知らない奴に名前呼ばれちゃえば不審に思うし、更に十代目候補とその家庭教師様となればそりゃあもう警戒するわけで、正体と名前を知ってる理由を追及され、言わざるを得なくなったものだから、………う、ん。言っちゃったよ。未来が見える、って言っちゃったよ! 君たち実は漫画なんです!とは言えなかったので、あとこの世界の人間じゃないってことは言いました、言うべきとこだと思ったから。
必死に言葉を紡ぎ終えると、黙っていたリボーンが私の首に掛かったリングを見て、息を呑んだ。リングについて問われて、少し戸惑いながら母の形見だと答える口を閉ざし、何を思ったのか私を沢田家に置くことを押した。そんなわけには、と首を振る私にツナからの予想外に強い押しも来て、奈々さんからも早々にオーケーを頂いたらしく、居候の決定。それが3日前のこと。
まだ3日、もう3日、たったの3日。とても長くて、短い3日。夜寝て朝起きたら夢なのかもとか起きたら戻ってるかもとか、色々考えて、色々やってみて、でも、戻れなくて。こっちに来た理由もきっかけも分からない、もともと無いのかもしれない。来たきっかけが無いということは、戻るきっかけも無いということ。私は、戻れないのだと、悟った。持ってるのは肌身離さず持っている、首に掛かったリングだけ。携帯も無くて財布も無くて、初対面のツナ達を前に強がって泣くもんかと笑っていたけど、本当はすごく不安だった。何も分からない。右も左も分からないなんてどんな状況だろうと思っていたけど、嗚呼、こんな状況のことなんだろうと思った。
泣くもんか泣くもんかと笑う私に、ツナは笑ってくれた。眉を下げて、弱々しいけれどとても暖かな笑顔を私に向けて、大丈夫と言ってくれた、ここにいればいいよと笑ってくれた。奈々さんも同じように笑ってくれて、その優しさに涙ではなく笑みが溢れた。
ボンゴレ初代、ジョットさんジョットさん。私はとても不安です。あなたの言っていたあいつという方の言っていた運命は、私に何をさせる気なんですか? どんな理由があるんですか? 私はバカだから、まったく分からないけど、ツナを頼むと言うくらいだから、彼に関わることなんでしょう。分からないけど、怖いけど、私はこの人達を失いたくないです。ここに居るべきではない私だけれど、私でもいいと言うのなら、私しかいないと言うのなら、私は私に出来ることをします。
私は、この人達を守りたい。
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