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目が霞む。
周りを見渡せば、私を狙ってきた人間達がギリギリ死んではいないものの、ある者は血を流し、ある者は折れ曲がった四肢を持ちながら気を失っている。その数はザッと見た限り、50は難くない。
さすがにこの私も、殺さずに応戦というのは骨が折れた。

吸血鬼の原種に限りなく近い私は、人間の与えてくる傷などで死ぬことはまずない。傷はすぐに治癒を開始するし、首を落とされるか、心臓を貫かれるかでもしない限り、死ぬことはない。
ただし、治癒は如何なる場合でも万能というわけではない。
治りはするが、それは傷を受けなかったことにするわけではなく、人間と同じように、身体の中の細胞達がとてつもなく早く仕事をしてくれるというだけだ。
傷が深ければ治る時間はかかるし、ダメージを受け続ければ、治癒自体にかかる体力が少しずつ削られていく。
殺す気でかかってくる人間を、殺さないように動きをとめるためだけにダメージを加える。
片っ端から殺すなら正直易いものだけれど、半端な力加減など本来私の質ですらない。

全員を相手にし終えた後、自分の血か返り血か分からないものにあちこち濡れながら、その場に崩れ落ちる。

──疲れた。
ひどく、疲れていた。
きっとこの体についた血を舐めれば、横たわっている人間達の血を啜れば、この受けた傷も、消耗した体力もたちどころに回復するに違いない。
それをしないのは、きっと私がこの人生に、私のこの生に疲れているからなのだろうか。

ポツリ、ポツリ、と降り出した雨が徐々にその勢いを増して肌を打ち付けていく。
もう、疲れた。
きっとここで気を失っても、私は死ぬことはないだろう。誰かがトドメでも差しに来ない限り。
私にこの人間達を差し向けた人間が、もしかしたら近くで見ているのかもしれない。私が力尽きて気を失うのを待っているのかもしれない。
あの人間の手に落ちるのは嫌で応戦したけれど、周りに横たわる彼らも、彼奴にうまいこと使われたのかもしれない。
それでも、私の言葉が届くことはない。話し合いなど無意味。理解を求めるなど不毛。言葉を交わすことなど、不可能。
同じヒトの形をしていようと、彼らは純度100%の人間で、私はそうではないのだから。
歳をとらないこの体も、見慣れないこの髪色も、この目の色も、すべてが彼らにとっては異形であり、敵なのだ。
自分の生に疲れていながら、彼らに屠られることを拒んだのは、あの人間の思惑通りにいくのが嫌だったからなのか。それとも、私はまだ、何かに期待をしているからなのだろうか。

涙は出ない。
ただ乾いた笑いをひとつこぼしてから、目を閉じた。