「ともに生きるだけでいいのか?」

 と予想外のところをランサーが突いてきたので、思わずお茶を飲む手を止めてしまった。

「え? だめ? やっぱり」
「ケルトの男は一度した誓いは破らねえさ。ただお偉いさん方は、サーヴァントと契りを交わすことをご所望なんだろう?」
「そう、です、はい……」
「つまり、俺とおまえさんは愛し合うことが必定ってわけだ」

 湯飲みを置き、できるだけランサーと距離をとった。

「おい、距離をとるな距離を」
「まあ、契り、ですからねえ……でも……」
「あ? オレ? オレはほら、イケって言われりゃイケなくもないぜ」

 さらに距離をとる。ガガガガッと椅子を引きずる音と同時に「冗談だ小娘」とランサーが釘を指した。

「正直、自分のことをマスターって呼んでくる相手に恋なんかしたくありません……」
「ハハッ! 違いねえ」
「とにかくまずは明日からどう過ごしていくか、です。幸い兄の部屋があります。物はほとんどありませんけど、必要なものがあれば用意します」
「なんだ、嬢ちゃん寝顔は見れねえのか」
「服も、その全身タイツじゃ悪目立ちしますね。明日にでも買いにいきましょう。フォーマルなものも1着欲しいですし」
「そんなもん霊体化すりゃあ済む話だろ」
「あ! ずるい! 霊体化は禁止です!」
「あ?! んでだ?!」
「フェアじゃない!」
「……まあ道理だな」

 ランサーは少し考えてから立ち上がった。また槍を振り回すのかと止めに入ろうとしたところでランサーの輪郭が光を帯び、瞬きする間に装いが変わっていて驚いた。

「わ、すごい」
「このくらい朝飯前だぜ」

 少し色褪せたジーンズに白い半袖シャツ。見かけだけはどこにでもいる好青年だ。

「気に入ったか?」
「うん。すごくいいと思う」
「魔力で編んだ霊衣だし、戦闘態勢にはすぐ入れる。問題ないだろ」

 ランサーは一度背伸びをし、部屋を見渡した。

「いい家だ。心地いい魔力に満たされてる」

 台所、冷蔵庫の中。ソファのスプリングにローテブルについたキズ。洗面所、脱衣所に風呂場。洗濯機の中まで。
 そこら中を歩きながら、ランサーは何かを確かめているように見える。

「家の主は?」
「今はわたし」
「なに?」
「少し前に父が死んで、母はずっと前に亡くなった。兄は時計塔にいるし」
「そうか。野暮なことを聞いたな」
「んー、べつに平気」
「そうか」

 仏間はリビングからふすま一枚を挟んで続いている。
 部屋の角にある仏壇の前で足を止めたランサーは、一瞬大きく目を見開いた。目を白黒させ、かと思うと吹き出して笑うのでどうしたのかと声をかける。

「ランサー?」
「あーあ、そういうことかよ」

 ランサーは頭をかいて、仏壇に向かい胡座をかく。わたしも隣へ座ると、困ったような、それでいてうれしそうにはにかむランサーの横顔があって、ますます意味がわからない。

「合点がいった。あんたは俺のマスターだ。あんたがそう望むかぎりは、な」
「ランサー」
「ああ、時がきたらすべてを話そう。おまえは何もかもを知らなさすぎる。無知は時に罪だが、しかしおまえのそれは違う」
「………」
「……いい家だ。ご両親はおまえさんにいいもんを残していってくれた。誇りに思えよ」

 ランサーは仏壇に手を合わせ、ぼそっと呟いた。

「貢ぎ物、ねえ」






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