「つまりわたし、生け贄ってこと?」

 ランサーは「ひっでえな」とケラケラと笑った。

「クー・フーリン。アルスター伝説の大英雄。クランの猛犬。光の御子。赤枝の騎士団」
「まあそんなとこだな」
「まずは話し合おう、ランサー。わたしはまだ混乱しているし、あなたのことをもっと知らなくちゃいけない。お茶を淹れますけど飲みますか?」
「酒はねえのか?」
「ありません」

 ティーパックのほうじ茶を1分半蒸らしてランサーに渡すと、一口飲んですぐに「ゲェッ」と顔を歪めた。それからほうじ茶は湯気だけ出して、そのまま放置されている。

「あなたはどう思ってるんですか? 今回の、その、召喚について」
「そりゃまあ……イケって言われりゃイケなくもないが」
「それは一旦置いといて」
「俺はサーヴァントだ。マスターの指示には従う」
「わたしをマスターだと言ってくれるの?」
「マスターじゃなきゃこんな苦い茶出してくれた時点で殺してる」
「うわ」
「冗談だ冗談。そう怖がるな」

 そうふざけた調子で言いながら、ランサーは頬杖をついてこちらを見る。サーヴァントはサーヴァントで、マスターを見極めたいということなのだろう。はたして「マスター」と呼ぶ価値のある人間なのかどうか。

「そういうおまえさんはどうなんだ?」
「なにが?」
「見たところ魔術なんかとは無縁の嬢ちゃんだ。呑気にこんな渋茶すすって」
「そう…ですね。そもそもわたしは、サーヴァントって言葉が好きじゃない。あなたは英雄だ。英雄と契りを結ぶなんておこがましいにもほどがある」
「なるほど。聡明な女は嫌いじゃない」
「時計塔の真意は読めません。目的も。事実と真実の判別もない。……でもまあ魔術師なんてみんなそういうものです。なんせ大英雄を使い魔と呼ぶくらいですから。ただ時計塔には兄もいるので、そう無下にするのも気が引ける」
「ああ。俺はあんたの指示に従うぜ」
「ランサー」
「あ?」
「いえ、英霊クー・フーリン。無礼を承知で頼みます。しばらく、わたしと一緒に生きてはくれませんか?」

 さながらわたしは、光の御子への貢ぎ物なのだろう。
 確かに用無し魔術師の厄介払いにはちょうどいい。わたしが言うのも何だが、時計塔もちょっとは機転が利くようだ。

「ああ。善処しよう、マスター」

 不安で染まるわたしの瞳とは裏腹に、ランサーの視線は柔くやさしかった。






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