「帰るぜ」と口から血塊をペッと吐き出してランサーは戻ってきた。
 青ざめた。意気揚々と戦ってはいたがその実、顔には無数の傷跡。衣装は所々が破れている。
 敵は雑魚だった。わたしの目から見てもそう。ランサーには遠く及ばない。だが数が多かった。いつか観た海賊映画みたいに、ぞくぞくと海岸から登って来た。

「ランサー」
「卵は無事か? 割れるとめんどくせえからな、においつくし」
「謝るのはお門違いだってわかってる」
「ああ、ならよし」
「ランサー、霊体化を許可します」

 返事はなかったが、今はもう実体のないランサーの姿が返事の代わりとみていいだろう。
 一応袋のなかをのぞいて、卵の無事を確認する。荷物を両手に持ち、帰路についた。

 行きの道とは打って変わって、帰路は海を背にすることになる。くわえて上り坂だ。真上にある太陽は、ここぞとばかりに照らしつけてくる。
 額から汗が垂れてくる生理現象がどうしようもなく不快だった。
 ……ああ、嫌だ、嫌だ。

「ランサー」

 たまらず姿のない男を呼ぶと、気配を感じる。

『なんだ?』
「いるの?」
『そりゃあな』
「わたしには、何ができる?」

 返事はしばらくなかった。
 荷物が両手にあるせいで汗も拭えない。バスが横を通り過ぎていった。次第に陽射しが弱まっていき、雲行きが怪しくなる。一雨降る前に帰れればいいが。

 またバスが横を通り過ぎていった。
 何もできなかった。



『そんじゃメシが食いてえなあ』

 それだけ言って、ランサーはまた黙った。

「……えっ、それだけ?」
『あ?』
「そんなんでいいの?」
『ああ』
「何が食べたい?」
『……嬢ちゃんと同じもの』
「なんだそれ」

 思わず笑ってしまうと、ランサーは『知らん』とまた気配を薄くした。

「守るべきもん、かあ」

 空を仰ぐと頬に雨粒が落ちてきて、頬を伝って口の中へ転がりこんだ雨粒はしょっぱい。






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