「結局卵も買っちゃった!」 安かったんだもんしょうがない! へいへいと呆れた様子で荷物を持つクーフーリンの隣を歩く。 料理は特別好きでもないし、得意でもない。だがまあ頼りない父の影響もあってか、自ずと最低限の知識は身についている。食べられればすべてごちそうだ。なので特別手が込んでいたり、栄養価の高いものを食べようという意識の高さはない。 一方家計のやりくりは好きだし、わりかし得意だった。これも父の頼りなさあってのことだと思う。 父がいなくなって、次いで兄もいなくなって、最初のうちは戦慄したものの、コツを掴めば楽しくなってくるのが節約だ。何をどこまで切りつめるか、その残りをどこにつぎ込むか。そういったことの計画は慣れれば癖になる。 商店街の出入り口は円形に開けており、そこを抜ければすぐ帰路につく。帰りは上り坂だが致し方ない。光の御子様に頑張っていただくことにする。 ところが一歩前を進んでいたランサーは前触れもなく歩みを止めた。それに反応しきれず、わたしはランサーの背中に鼻から突っ込んでいくこととなる。 「フゴッ! ……ラ、ンサー。止まるならそう、」 「シッ」 ただならぬ雰囲気に口を閉じた。ランサーはわたしを制止してから辺りを探り、こちらを振り向くことはなかった。 「ランサー」 「妙な気配がするな」 「なに、それ」 「敵か」と言うが早いか、ランサーの装いが青い戦闘服に変わった。手にはもちろんあの槍。 浮かれたアロハシャツとの温度差が凄まじく、それだけで体感温度が5℃くらい下がった気もするが、確かに得体の知れない悪寒がするのは事実だ。 「敵? なんでまた…」 「そりゃあお前、こんなのっぺりした町に、俺みたいな魔力の塊がポッと出てきたら、まあ脳ミソのねえやつらはすぐ食いついてくるわな」 「脳ミソのない?」 「ああ。雑魚どものお出ましだぜ、マスター」 ランサーの背後からのぞく。浜辺の方から、骸骨の大群がこちらに向かって歩いてきている。 ヒッと声になり切れない悲鳴が喉から這い上がってきた。クツクツと聞こえてくる嘲笑うかのようなノイズは、確実にこちらへの悪意をはらんでいる。 思わず後ずさりをするが、ランサーが後ろ手でわたしの後頭部を掴み背中に押しつけた。おかげで再びランサーの背中へと鼻から突っ込むことになった。 「フゴッ」 「おうおう、ご無沙汰じゃねえの骸骨兵さんたちよ! 何がご所望だ? 血か? 魔力か? 聖杯か?」 「ラン、フゴッ」 「ハッ! 見かけによらず律儀な性格してんじゃねえか。わざわざご苦労さんなこって」 「モッモ(ちょっと)」 「なに、宣戦布告になんざ来ずとも好きなだけくれてやるさ。生憎今の俺は、守るべきものなどこれひとつでね」 骸骨たちはやはりクツクツと音を鳴らし、こちらへ歩いて来る。ランサーの台詞はまったく耳に届いていないようだ。 ランサーの魔力が急激に膨れ上がる。それに反応して地面から熱を帯びた風が吹きあがり、そのまま陽炎のようになって辺りを囲んだ。 目先で垂れている尻尾に似た青髪をつんと引っ張ると、ランサーは少しだけこちらに顔を向けた。 「ランサー」 「ん? ……なぁに心配すんな、予想通り雑魚しかいねえよ。迅速に片をつける」 「うん」 「……怖いか」 「うん、まあ。でも、」 「よし、素直なガキは嫌いじゃねえ。いいよ、おまえさんは何も見なくていい。ここにいろよ、いいな? ただ荷物は頼むわ」 「卵あるから気をつけろよ!」とランサーは骸骨兵の群れへ飛び出して行った。 血溜まり色の槍が、烈火のような残像を残しながら青空を舞う。 back |