その研究は、時計塔にて密かに行われていた。 吹けば飛ぶような我が***家は、地位や名誉はないが歴史だけはある魔術師の家系で、日本のとある港町に門を構えている。 根元への到達を目指し、***の誇りをかけ日々切磋琢磨…は、はっきり言ってしていない。 「お母さん、パパ、ただいま」 チーンとその禍々しい外観にはてんでそぐわない涼しげな音がなる。額縁のなかの父と母が答えるわけもなく、「はい、おかえりおかえり」と自分で自分に返してやり仏間を離れた。 父。母。兄。わたし。の4人家族、と言っていいのかどうかは各々の判断に委ねる他ない。西暦2036年現在、この家の主は若干18歳の女子高生、わたしだ。 母はわたしが2歳になるのと同時に亡くなった。理由は知らない。ただ、おかげでわたしは母の顔も髪の色さえも覚えちゃいない。母が最前線で活躍する魔術師であったことを知ったのは最近のことだった。 父の顔はさすがに覚えている。父も魔術師であったそうだが、いつまで経っても洗濯機すらまともに回せない男に魔術など扱えたのだろうか。実際、彼が魔術を使う姿をわたしは見たことがない。というのも、母が亡くなってから掃除洗濯家事全般は自ずと父の役目になったからだ。 根元の渦より目先の生活。まだ幼かったわたしの世話も含めて、魔術などにうつつを抜かす暇もなかったのだろう。……いや、訂正だ。この言い回しは相応しくない。彼は魔術でなく、わたしたち家族を選んだ。それが彼の選択だった。 雪のような男だったように思う。消えかけの曖昧な記憶だが、確かにきれいなひとだった。うつくしいひとだった。淡雪のように日差しを透かす癖毛はいつも踊っていた。だが父は、さながら雪のように何の痕跡も残さず、いつの間にかいなくなった。 どうせなら遺書の一つや二つ残しておいてくれればよかったのに。でも魔術師なんてみんなそんなものなのだろうと思う今日この頃だ。 2つ上の兄は父が亡くなってすぐ時計塔に呼ばれた。2年が経つ。連絡はとくにとっていない。育ての父がああだったからか、「アレならなんとでもやるだろう」という身勝手な信頼がわたしと兄の間にはある。 唯一の生存確認手段といえば月に一度届く時計塔からの便りか。といっても、各地の魔術関係者に届けられているオフィシャルチックなもので、これといって有意義な情報はない。もっと何か寄越せといえば寄越してくるのだろうが、魔術協会において我が***家は完全に蚊帳の外。それくらい微少な家系なのだ。 ……まあ、おかげでわたしは今こうして、駅前の言わずと知れたケーキ屋【ミス・エトワール】で売り切れ必至の絶品ニューヨークチーズケーキを食べながら、ひとり静かなおやつの時間と洒落込めているわけなので望むところではあるのだが。 三角形のチーズケーキの一番細いところをフォークですくって、吸い込むように口にふくむ。至福の瞬間。 そうしながら郵便物の確認をしていると、見慣れた時計塔からの便り。そしてそれと一緒に 「……ん?」 覚えのないエアメールが。 back |