******は一般人として生まれてきたし、一般人として育てられてきた。 その家系の魔術刻印を継承できるのは、一人だけだと決まっている。そういうふうにできている。詳しくは知らない。 いろいろなケースがあるのだろう。家系の存続にシビアだったり、千年続いた一族の悲願を背負っていたり、そういう家に生まれれば、またそれ相応の選択肢があるはずだ。 ただ***家においては、用無しのわたしに「一般人」という道が与えられた。幸運にもここは平和な港町。あるとしたら迷い猫程度のほんわか事件。 まあ家柄が家柄だし、さすがに一般的には扱われないのだが、それでも、紛れもなく、わたしは一般人としてここまで生きてきた。 「わたし?」 兄宛の手紙が間違って送られてくることはこれまでにも何度かあった。だが今回は正しくわたしに宛てられた手紙だった。蝋で厳重に封がされている。送り主は、ない。 いたずらかとも思ったが、怖いもの見たさでとにかく開けてみることにした。すると中から親指サイズの石ころがころり。 「なにこれ」 石というよりもガラスに近い。ビー玉のように磨かれたそれは濃い青で、陽に透かしても青が薄くなることはない。 形は歪んだおはじき。そして何より、表面に記号らしきものが掘られているのが気になる。 「……なにこれ」 いたずら、にしてはイマイチ悪意を感じない。なんとなく記号を人差し指でなぞってみると、ピリリと指先が痺れる感覚があって咄嗟に距離をとった。 封筒には……これだけ? メモ書きのひとつもない。 「ゲ」と品のない声が漏れてしまった。 もしかしたらこれは、かなり厄介なものなのではないだろうか。そういうものにはなるべく関わりたくない。だが放置しておくのも憚られる。どう処理しようか考えあぐねていると電話が鳴った。 ……このタイミングの良さは奇妙だ。おそるおそる受話器をとるものの悪い予感しかしない。 「はいもしもし」 『あ、お忙しいところすいません。***さんのお宅で?』 「はあ、ええ、はい。そうですけど」 『自分はカウレ、……いや失敬。名は控えさせていただきます。ご容赦ください。そっちの方が何かとやりやすいので』 「切ります」 『ちょっと』 道理だ。名乗りのないものの話を聞く筋合いはない。 男の声だった。穏和で上品な口調はいくらか落ち着いた印象を与えるが、言葉選びから隠しきれない強引さは若者のそれ。 いたずらかと早々に受話器を置こうとすると『時計塔の者です』とだけ聞こえてきて、無下にするわけにもいかなくなった。そういう大事なことは、もっと最初に言ってほしいものだ。 「……兄ならそちらにいるのでは?」 『ええ。師のもとで勉学に励んでますよ。で、あなたは***のお嬢さん……、***さんで間違いない?』 「………」 『ハハ、さすがに教育がよく行き届いてるなあ。聡明なお嬢さんだ。話が早く済む』 「話?」 『その点あなたは、お母様とよく似てらっしゃるように思う』と男は言った。 「あの、」 『手紙、見ました?』 「はい」 『封は?』 「開けました」 『ストーンの色は?』 「青?」 『単刀直入に言います』 あなたには、サーヴァントを召喚していただきたい。 back |