(01.でもまあ、善意とは基本、押し売りするものだと魔術師は言っていたのつづきです) 「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャン! ……む。ちと古いか? まあ良い。久しいなあ立香! 忘れたとは言わせんぞ! わしこそが第六天魔王、織田信な」 「すみません、部屋間違えてます」 平穏だった新居。そこに突然、何の前触れもなく降って湧いた織田信長は、たしかにあのノッブだった。 「で、」 どういうことかと問いつめた。いったい今日だけで何回問いつめればいいのだ。 「なんでいるんです? ノッブ」 「なんでとは薄情じゃな。まあなんというか。『わしらがいなくなってあの弱小マスターちゃんとやれてんのかな』という視察を兼ねたサプライズ的展開?」 わかることが一つもないんじゃが? むしろノッブが喋るたびに疑問が上乗せされていくのは何故。ちょっと話の通じるサーヴァント連れてきてくれない? ……いややっぱりいい。混乱がさらに深まることなど未来視しなくてもわかる。 「いや契約したんじゃけどね〜〜、そりゃもうそなたなんて比じゃないくらい優秀なマスターと契約したんじゃが! じゃが!」 勢い余ってそのままいかず、ノッブはそこで止まってハァと物憂げにうつむいた。 「そなたがいなくなってからというもの、カルデアも平和になったものよ。というかカルデアに起きるアレコレって、そなたが弱小故に起こるもんばっかじゃったし?」 「そう?」 「自覚なしときたか。まあ是非もないよね」 背後でまたヒュンッと音がした。 「ちょっとノッブ、キリのいいところで帰ってきてくださいよ」 「お、沖田か。まあ座れ」 「いやまあ座れではないよね」 ぞくぞくとやって来るではないか。友だちのいえ感覚か? カルデアと東京ってそういう距離感? 結局沖田さんはすぐにいなくなり、再びノッブと二人になる。不覚にも「静かだな」と思ってしまった。そういえばカルデアにいたときは「静かだな」なんて思ったこと、一度もなかった。 「ということでじゃな、立香」 「ん?」 「詳細は、後日ダヴィンチから文が届く」 「えっ、結局?」 ノッブは立ち上がった。空はすっかり暮れている。カルデアの空がどうかは知らないけど。 わたしがたぶん、右も左もわからない小動物よりも幾分マヌケな顔をしていたのだろう。 「さて、帰るかの」 「え? 帰るってどこに?」 「そなたが言ったんじゃろ、カルデアに残ってくれと」 「帰れるの?」 「無論じゃ」 何が何だか理解もできぬままつられて立ち上がるが、ふと気づく。 「あれ? マーリンは?」 「なんじゃと?」 ノッブは訝しげにこちらを見た。 「マーリン、さっきまでいたでしょ」 「……何を言っとるんじゃ。夢魔など最初からおらんぞ」 「は?」 事実、部屋中を探してもマーリンの姿はなかった。 はっとして窓辺に駆け寄る。庭はまた、一面の猫じゃらしに戻っていた。 「………夢?」 何も知らないはずのノッブも察したようで「してやられたな」とガハガハ笑った。 してやられたというか、いやたしかにしてやられたんだけども。今日のマーリンは、なんかもっと、夢みたいな感じだった。まあ夢魔なんだけど。 「ま、マスター適性だけはいっぱしにあるからの」 「わたし?」 「マスター適性だけは、じゃ」 ノッブが、広い世界を沢山の民を「わしのものじゃ」と言うときと同じ、何一つ迷いのない不敵の瞳でわたしを見たからわたしも負けじと笑い返してやった。 「じゃあの、立香」 「うん、じゃあ」 「なに、そのうちまた会う」 「うん。なんか怖いけど、わたしもそんな気がする」 ヒュンッと音がしてノッブは光の粒を残して消えた。 すっかり静かになった部屋、マーリンがしつらえてくれたベッドに横になる。 もうすっかり、わたしのことを「マスター」とは呼んでくれないんだなあ。 「あ、やっとお帰りですかノッブ」 「うむ。すまぬなダヴィンチ。遅くなった」 「平気さ、想定内の時間オーバーだ」 カルデアに戻った織田信長は、自分が残した光の粒を、最後の一粒が消えてなくなるまで悠長に見送った。自分の立っている位置と、数秒前までの床の記憶を交互に確認する。 その刹那、「薄情なやつよのぉ」と捨てるようにわらった彼女を知る者はいない。 花の塔には夢魔がいた。 頬杖をつきながらうむと満足げに笑っている。 藤丸立香。 億千の星が君の剣となり、盾となろう。そして、友となろう。 何ももっていない君、もしくはすべてを失ってしまった君に与えよう。使い魔ではなく、君の友として。 君は、君の世界をつくっていくのだ。この東の地で。 ーーどうか、最後まで善い旅を。 ← |