《氷剣王−フィオーレ・ネーヴェ−ティンクエ・プラトリーナ》
★5
ATK2000
デイジーの花から生まれるようにして現れたモンスターは、相手フィールド上に存在している《エイリン》と《ウォルフ》をじっと見つめていた。
決して高いとは言えない攻撃力。しかしそれでも、威圧感が拭えないのは、《ティンクエ・プラトリーナ》が持つ底力を示しているのだろうか。とはいえ、ただ攻撃力2000ではこの場をどうにかできないのも事実だ。
「……けど! 攻撃力2000の《プラトリーナ》じゃ、俺のフィールドの《ウォルフ》を倒すことは出来ない!」
彼の言葉に呼応するようにウォルフが吼えた。確かに、攻撃力2100の《ウォルフ》を倒すことは、このままの《ティンクエ・プラトリーナ》には不可能なことである。
しかし梨蘭は表情を崩さない。むしろ楽しげに口角を上げ、余裕の表情を浮かべている。
「そう急くな。私のターンは始まったばかりだろう?
《氷剣王−フィオーレ・ネーヴェ−ティンクエ・プラトリーナ》の効果発動!
オーバーレイユニットを一つ使い、墓地に存在する《フィオーレ・ネーヴェ−オルテンシア》を、《プラトリーナ》に装備する。そうすることにより、《プラトリーナ》の攻撃力は装備した《オルテンシア》の攻撃力──つまり、1500分アップする……!」
「な……っ!?」
ATK 2000→3500
墓地から蘇った《オルテンシア》が、紫陽花のネックレスへと変貌する。《プラトリーナ》は満足げにそれを受け取って自らへと装備した。デュエルディスク及びデュエルゲイザーは当然のことのように、《プラトリーナ》の攻撃力上昇を淡々と処理していく。いっそ、冷淡な程に。
《ウォルフ》の攻撃力を上回ったことに少年は動揺を隠せないらしく、じっと自分のフィールドを見つめている。それを梨蘭が気づかないわけはなく。
「……なるほど? その伏せカード、状況を守るためのものと見た」
「い……っ」
「悪いが使わせんぞ。手札の《フィオーレ・ネーヴェ−トゥリパーノ》を通常魔法として発動」
きゅいん、とディスクがカードを読み込む音がする。かと思えば、チューリップの花がフィールドに咲き誇り、みるみるうちにフィールドを埋め尽くしてしまった。それは自分フィールドだけではなく、相手フィールドをも侵食する。
ARヴィジョン上の《ウォルフ》と《エイリン》はひどく戸惑っている様子だが、《プラトリーナ》はチューリップを一輪摘んで匂いを嗅いでいる。《プラトリーナ》の行動は自身が有利と見ての行動なのだろうか。
「《フィオーレ・ネーヴェ−トゥリパーノ》が魔法として発動されたターン、互いに罠カードを発動することは出来ない。……それが速攻魔法ならどうしようもないがな?」
「く……つ」
「君の態度を見るに、その心配はなさそうだ」
ポーカーフェイスを覚えた方が良いよ、とあとで助言でもしてやるべきか。
そんなことを考えながら、梨蘭はデュエルゲイザーに浮かぶ時刻をちらりと見た。思ったより時間がかかっていて、渋い顔になってしまう。
──凌牙、余計なことをしていないといいが。
嫌な予感がふとよぎって、そんなことを思ってしまった。ないとは信じたいが、近頃の荒れようを見るにないとも言いきれない。
……一度不安になってしまえば、それが付きまとうのは当然というもので。目の前のデュエルに集中出来なくなる前に、と梨蘭は息を吸いこんだ。
「……すまんな、これ以上は私も時間をかけていられない。
もう一度《氷剣王−フィオーレ・ネーヴェ−ティンクエ・プラトリーナ》の効果を発動、オーバーレイユニットを一つ使い、墓地に存在する《フィオーレ・ネーヴェ》モンスターを装備魔法として装備する!
私は先ほどオーバーレイユニットとして墓地に送った《フィオーレ・ネーヴェ−ガルデーニア》を装備! これにより、《ティンクエ・プラトリーナ》の攻撃力は、ガルデーニアの攻撃力分、1000アップする!」
ATK 3000→4000
今度は《ガルデーニア》が梔子のブレスレットへと変化した。《プラトリーナ》は先ほどと同じように、ブレスレットを受け取りめかしこんでいく。どんどんと華やかになる見た目と、どんどんと上がっていく攻撃力。あまりの出来事に、少年は息を飲んだ。
速攻で片を付けるのはあまり好きではないのだが、と梨蘭が口の端で零す。誰にも聞かれることなく、その独り言は霧散していった。
「バトル!
《氷剣王−フィオーレ・ネーヴェ−ティンクエ・プラトリーナ》で《ライトロード・ビースト ウォルフ》を攻撃!」
「く……っ!!」
少年
LP 4000→1900
攻撃力4000の攻撃が軽いはずもなく。
少年は必死で耐えようと足に力を入れ、風圧から顔をかばう。
《ウォルフ》を破壊されたのは痛い、だがそれだけだ。どうせ次のターンからは伏せた《ライトロード・バリア》も使えるのだし──と、そこまで思案して。
梨蘭が悍ましいほど綺麗な顔で笑っているのに、気づいてしまった。
「あ──」
少年の動きが止まる。何も考えられないような顔をしている。
梨蘭は目を細めた。
嗚呼、またこんな感じで終わってしまうのか、と少しだけ残念に思うが、それはそれ。自分の兄への想いが強すぎることに自嘲気味に笑いながら、梨蘭は最後の宣言をする。
「──《プラトリーナ》がオーバーレイユニットを持たない時、戦闘で相手モンスターを破壊した時。
自ら《プラトリーナ》を破壊することで。
《プラトリーナ》が戦闘でたった今破壊したモンスター、つまり《ウォルフ》の攻撃力分、2100のダメージを相手に与える。
……いいデュエルだったよ、わかり易かったこと以外はな」
くるり、と後ろを向いた。結果を見ることなく歩みを進める。
さて、凌牙はどこにいるのだろうか。そう考えた瞬間、あの少年の断末魔と、LPが減る音が無情にも耳に届いた。
少年
LP 1900→0
……結局、梨蘭が凌牙を見つけるのは、凌牙が同じクラスの九十九 遊馬とアンティルールのデュエルの約束を取り付けた後だったのだけれど。
騎士は徒手にて死せず
(まったく、本当にツイてない日だ)
†