「このカードはフィールド上に《フィオーレ・ネーヴェ》カードが存在しないと発動できないのだけれど、今の私のフィールドには《フィオーレ・ネーヴェ−ガルデーニア》が永続魔法として存在するからな。
……《オルテンシア》が発動された次のターン、相手はバトルフェイズを行うことが出来ない。つまり、君の次のターンのバトルフェイズは封じさせてもらったよ」
防戦、というのはあまり得意ではないし、時間もかかる。急いでいる現状でそれをするのは気が引けたが、だからといって簡単に相手の攻撃を許すはずもない。
その場凌ぎ、姑息な手にしかならないが、何もしないよりはマシだろう、と梨蘭はそれを選んだ。
再三言うが、梨蘭のデッキは特殊だ。モンスターを魔法、そしてまだ出てはいないが罠として発動することなど、普通のデッキでは出来るはずもない。
フィールド上に存在するモンスターが破壊された時に永続魔法として魔法ゾーンに置くことが出来る《宝玉獣》というカテゴリも無くはないが、それだけである。魔法のようになにかの効果を持つことは基本的にないし、自発的に発動することも出来ない。つまり《フィオーレ・ネーヴェ》は極めて珍しい効果を持つのである。
故に梨蘭のデッキは特殊で、特異であった。イコール強いというわけでもなくて、相手のデッキとの相性だったり、その時その時の運にもよるが。
「私はこれでターンエンド」
とりあえず次のターンのバトルフェイズを封じることには成功した。ここからどう動くのか、それだけが問題である。
じっと前を見つめていると、男子生徒はゆっくりとデッキに手をかける。早くしてくれ、と思わなくもないが、向こうも向こうで色々考えているのだろう。マナー的にも梨蘭の心情的にも、急かすような真似だけはしなかった。
「俺のターン、ドロー!
……ええっと。俺は《ライトロード・モンク エイリン》を召喚!」
☆4
ATK1600
男子生徒が勢いよくデュエルディスクにカードをセットすると現れた褐色肌の女性。彼女も《ライトロード》の名を冠する一員で、《ライコウ》や《ウォルフ》と同じように白に黄金が施された鎧を身にまとっている。
なるほど、あれが《ライトロード》の共通衣装なのだろう。一人で勝手に納得して、梨蘭は男子生徒の次の手を待つ。
男子生徒が手札を見る視線は厳しい。あまり良くない手札なのか、それとも逆にいい手札だからこそなのか、梨蘭にはとんと検討がつかなかった。つかないからこそ、梨蘭はその視線をほんの少しだけ好ましく思う。
デュエルは好きだ。そしてそのデュエルに真摯に向き合う人も。半ば慈愛めいている感情ではあるが、その思いに偽りはない。デートをする気はやはりないが、名前くらいなら聞いてやろうか、なんて。
「……カードを一枚伏せて、ターンエンド!」
カードが一枚裏側で表示されて男子生徒はターンの終了を宣言した。バトルフェイズを行えない以上、そうするのは自然だろう。たまに魔法効果を受け付けないモンスターもいるが、《ライトロード》にそんなカード効果を持つモンスターは……いただろうか。
相手のフィールドにはウォルフとエイリン、そして伏せカード。対して、こちらのフィールドには永続魔法扱いのガルデーニアのみ。劣勢なのは火を見るよりも明らかだが、梨蘭は表情を曇らせることは無かった。むしろ──。
「……梨蘭さん?」
「いや、失礼」
楽しい。自分が劣勢であればあるほど、それをどう覆そうか考えるのが楽しい。どう勝とうか考えるのが楽しい。言い方は悪いが、どう──どうやってフィールドを蹂躙するか、考えるのが楽しい。
自分からデュエルをすることはあまりない。嫌いだからとかそんな理由ではない。ただ、昂って仕方がないから、抑えが効かなくなるから、やらないだけ。
それほどまでに梨蘭は、デュエルが好きなのである。
(そういった意味では、私や美夜、遊馬らは同類なのだろうな)
簡単に形容するのなら、デュエルバカ。
「行くぞ、私のターン、ドロー!
……私はフィールドに存在する《フィオーレ・ネーヴェ−ガルデーニア》のもう一つの効果を発動!
このカードが永続魔法として魔法・罠ゾーンに存在する時、手札を一枚捨てることで《ガルデーニア》を破壊して、墓地には送らずモンスターゾーンに特殊召喚することが出来る!
私は手札の《フィオーレ・ネーヴェ−アドーニデ》を墓地に送り《ガルデーニア》を自身の効果で破壊し、モンスターとして特殊召喚!」
☆5
DEF2000
凍りついた梔子(くちなし)の腕飾りをつけた少女が自らの身を守るようにして現れる。青く凍った瞳はARヴィジョンだというのに確実に男子生徒を射抜いていて、なんというか、品定めをしているようにも見える。
一体何をそんなに見る必要があるのだろう、と疑問に思わなくもないが、思ったところで仕方が無い──ARヴィジョンにそんなことを問いかけても仕方が無いし──ので、梨蘭はそんな疑問をすぐさま投げ出してほかのカードを一枚手に取った。
「更に! 通常魔法として《フィオーレ・ネーヴェ−プルーニャ》を、《ガルデーニア》を対象に発動!
《フィオーレ・ネーヴェ−プルーニャ》は、対象の《フィオーレ・ネーヴェ》を──一体で二体分のエクシーズ素材とすることが出来る」
「っ……!!」
その、言葉が意味していることは。
エクシーズ召喚。
たとえ《ライトロード》にエクシーズモンスターが少なくても、それはこの世界の一般的な召喚法で。その強さも周知の事実で。
ゆらりと梨蘭の口角が上がる。こんな顔、凌牙が見たら卒倒しそうだな。そんなことを考えながら、梨蘭は右手を前に突き出して宣言した。
「私は、一体で二体分となった《フィオーレ・ネーヴェ−ガルデーニア》で! オーバーレイネットワークを構築!」
呼応するように、ガルデーニアがふたつの水色の光となる。天空にポッカリと空いた穴に光が吸い込まれて、眩いばかりの光を放った。
心が凍えるような思いになる。何か悍ましい力が、ARヴィジョンを介してこの場を蹂躙していく感覚がする。
重い。びりびりと空気が痺れて、重くのしかかる。指先の一つさえもその空気に支配されるようで、自由が効かない。しかし梨蘭はその空気を吸い込んで、当然のことのように口からそれを紡いだ。
「純潔たる氷の花弁よ、希望を紡げ、平和を歌え、その力を我が皇へ示せ!
──エクシーズ召喚!!」
眩い光がフィールドに向けて射出される。存在しないはずの衝撃が梨蘭の身体を叩きつけたが、微動だにしない。
凍った花がフィールドへ現れる。しん、と静まった空気を揺らして開かれるそれは、生命の誕生を予感させるように神秘的なもの。
ふわりと、花の香りがした。
「凍て咲け、《氷剣王−フィオーレ・ネーヴェ−ティンクエ・プラトリーナ》──!」
デイジーの花言葉
(美人、純潔、希望、平和)