「僕は手札から魔法カード《ルーチェ・ステッラの戒め》を発動!」


 流れるような動きで緑色の淵をしたカードをデュエルディスクにセットした。ぎゅいん、とディスクの起動音がして、カードを読み込んだことを知らせる。
 同時にARヴィジョンに映し出される魔法カードは、美夜がセットしたものと同じものだ。そのカードに描かれているのは、今現在フィールドに残っているヴィルジネが鎖と枷に囚われたようなイラスト。
 そのカードの姿を見たらしいヴィルジネの顔が不満に染まったようにも見えたが、残念ながらそれをそうと理解できるのは美夜だけである。


「このカードはフィールドにルーチェ・ステッラと名のついたカードが存在するときだけ発動可能!
 手札を1枚墓地に送ることで、フィールドに存在する《ルーチェ・ステッラ》と名のついたモンスター一体と同じレベルの《ルーチェ・ステッラ》を墓地から召喚することができる!
 ……僕のフィールドに存在するのは、レベル6になったヴィルジネ。墓地に存在するのはレベル6のアリエーテだよ。
 ってことで! 手札の《ルーチェ・ステッラ カンクロ》を墓地に送り、墓地から《ルーチェ・ステッラ アリエーテ》を特殊召喚する!」


☆6
DEF/2400


 ふよん、と現れたのは先程と同じような毛玉だった。ただ、さっきと違うのはその毛玉には鎖のようなものが埋め込まれていて、その鎖がヴィルジネに繋がれていることだった。
 魔法カード、《ルーチェ・ステッラの戒め》。そのカードのイラストと同じように鎖に絡め取られ、枷を嵌められたヴィルジネは心底つまらなさそうな顔をしている。
 そんなヴィルジネの姿を見て美夜はひとつ苦笑いを零す。そして効果の続きを紡ぐために口を開いた。


「ま、この効果で召喚されたモンスターは、効果の対象となったフィールドのモンスターが破壊されると同時に破壊されちゃうんだけどね」


 だから戒め、なんだよ。付け足してからカードを一枚手に取る。その目は楽しげに輝いていて、この緊迫したデュエルには不釣り合いな程だった。
 遠くで梨蘭がため息をついた気がするが、これが美夜だ。今更変えられないし、本人も変えるつもりはないのだろう。梨蘭自身それも分かっているので、とやかくいうことはないが。


「さて、破壊されるのなら、破壊される前にこちらから動けばいいわけで……行くよ。
 レベル6の《ルーチェ・ステッラ ヴィルジネ》と《ルーチェ・ステッラ アリエーテ》で、オーバーレイ!!」

「……!」


 先程贄野がやってのけたように美夜も宣言する。ヴィルジネとアリエーテが二つの黄色い光になり、重なり、交じる。その光が破滅を呼ぶものか、希望を呼ぶものか、それを知るものはいない。
 ただ楽しげに、やはりこの場の空気に似合わぬ程の明るい声で召喚の儀を執り行う。手を胸のあたりで組み、祈るようなその姿は巫女のようにも見えた。


「二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、……エクシーズ召喚!
 祈れ、願え、現れよ! 呪われし双子の魂、運命に抗え!! 《天双王−ルーチェ・ステッラ セイ・ジェメッリ》!!」


 教室に響く美夜の声。どくんと心臓が大きく鳴った気がして、口元を綻ばせる。

 ARヴィジョンに映るのはよく似た容姿をした二人の少年。だが纏う雰囲気は全く別のもので、片方は戦えることに嬉々としているようだが、もう片方はこの状況を嘆いているようにも見える。
 鏡写のような二人の姿に、この場にいるすべての人の目は奪われる。ただひとり、目を伏せたままの美夜を除いては、だが。


★6
ATK 2500


「……だが、そいつの攻撃力は2500! エネアードには届かな──」
「それはどうかな!」
「何!?」
「そもそもボクはまだ終わりなんて言ってないでしょ?
 《天双王−ルーチェ・ステッラ セイ・ジェメッリ》の効果発動! ORUをひとつ取り除き、手札のモンスターカードを墓地に送って! そのモンスターの攻撃力分、このカードの攻撃力をアップする!
 ボクが墓地に送るのは《ルーチェ・ステッラ スオルピオーネ》。スオルピオーネの攻撃力は2800! よってセイ・ジェメッリの攻撃力は2800アップする!」


セイ・ジェメッリ
ATK 2500→5300


「く、だが、このターン耐えりゃまだ……!」
「……ごめんね?」
「あ……?」
「次のターンなんて、あげないよ」


 にっこりと微笑む彼女に悪意はない。それどころか、彼女が孕ませているのはただただデュエルを楽しむ感情だけだった。
 しかし──しかし、その笑顔がひどく恐ろしく感じるのは、彼女の中に秘められたその力に贄野が気づいてしまったからか、それとも別の理由か。
 それを知る由はないが、それでも無情にデュエルは進んでいく。


「墓地に送られた《ルーチェ・ステッラ スオルピオーネ》の効果発動!
 このカードが《ルーチェ・ステッラ》と名のついたカードにより墓地に送られたとき、フィールドに存在する《ルーチェ・ステッラ》モンスターを一体選択する。
 ──選択したモンスターは、このターン二回攻撃が可能なんだよね」
「……!!」


 よく考えなくてもその言葉の意味は分かる。攻撃力5300が繰り出す二回攻撃の、その意味と、破壊力は。
 ジェメッリの片方が涙を流し、もう片方は滾る力を押さえつけるようにギラついた目で笑う。攻撃宣言を今か今かと待ち構えるジェメッリに、美夜は極めて落ち着いた声で告げた。


「──行こうか、ジェメッリ。
 《天双王−ルーチェ・ステッラ セイ・ジェメッリ》でエネアードに攻撃! ドゥーエ・メテオーラ!!」
「ぐ、あぁっ!!」


贄野 LP4000→1200


 美夜はただの中学生だ。ただの、デュエルが好きな女子中学生。両親が有名人とはいえ、彼女自身は有名ではなく、普通に普通の少女として育ってきた中学生。
 しかし──贄野の目には、ただの中学生としては映らないだろう。今の美夜の姿は──。


「《天双王−ルーチェ・ステッラ セイ・ジェメッリ》で、ダイレクトアタック!!」


 終焉をもたらす巫女──あるいは、崩壊を呼ぶ悪魔。
 強大すぎるそのカードの力を叩きつけられた贄野は後に、自分自身の瞳写った美夜のことを、そう語る。




(ボクは楽しいデュエルが出来れば十分だよ!)

僕らが生きた世界。