「行くぜ! 《聖刻神龍−エネアード》で《ルーチェ・ステッラ ヴィルジネ》に攻撃!!」


 あ、効果発動しないんだ。へぇ。そう小さく呟いた美夜はその光景を何処か他人事のように見つめる。赤い龍が迫ってきているが、美夜にとってはそれは恐怖の対象ではない。むしろ、遊び相手にしか見えなかった。
 まったく、そんなんだから母さんに負けるんだよ。誰にも聞こえない独り言を零せば、美夜はすっ、と息を吸った。


「《ルーチェ・ステッラ ヴィルジネ》の効果発動! このモンスターは攻撃表示で存在する場合、1ターンに一度戦闘では破壊されない!」
「っは、それがどうした! 戦闘ダメージは受けてもらうぜ!!」
「更にもう一個! このモンスターが戦闘を行うことによって発生するボクへの戦闘ダメージは半分になる!! ……きゃっ!!」


美夜 LP4000→2550


 紛い物の衝撃が美夜の身体を襲う。それはどうせ本当の痛みなどではなかったが、リアリティを孕むそれに触れてしまえば脳が錯覚するのか、確かに身体に重い一撃が与えられる。腕で庇わずにはいられなかった。
 美夜! と遊馬が遠くで叫んだ気がしたが、同時にそれを梨蘭が止めるのも見えた。まったく、いい親友を持ったものだと小さく笑って、ヴィルジネの効果の続きを紡ぎ出す。


「……ヴィルジネの効果発動!
 このモンスターが戦闘で破壊されなかった場合、デッキから《ルーチェ・ステッラ》と名のついたモンスターを一体、守備表示で特殊召喚する! あ、この効果で召喚したモンスターは攻撃表示にすることはできないから、安心してね。
 ……ってことでぇ! ボクはデッキから《ルーチェ・ステッラ アリエーテ》を特殊召喚!!」


☆6
DEF 2400


 ヴィルジネの隣にもこ、っと綿のようなものが現れ、それきり動かない。ヴィルジネがいくら叩いても叩いても反応を示さないそれは本当に動いているのか不安になる。
 無論、ARヴィジョンを通してそれが見えているわけだが、デュエルゲイザーを通さなくても似たようなものなんだろうな、と想像すれば苦笑いが浮かんだ。
 ぱんっ、と一つ手拍子を打てば、綿のようなもの──アリエーテに向けられていた視線の全てが美夜へと向けられる。


「《ルーチェ・ステッラ アリエーテ》の効果発動するよ。
 《アリエーテ》が《ルーチェ・ステッラ》と名のついたモンスターの効果での召喚に成功した場合、フィールドに存在する《ルーチェ・ステッラ》と名のついたモンスター一体のレベルを任意に変更することができる!
 ……ボクは《ヴィルジネ》のレベルを、……そうだな、6にしておこうか」


《ルーチェ・ステッラ ヴィルジネ》
☆1→6


 アリエーテから出てきた赤い星が瞬き、ヴィルジネへと埋め込まれていく。ん、と漏れた声はヴィルジネのもので、彼女にも痛覚があるのだろうか、なんて割とどうでもいいことを考えた、

 相手ターンに長々と展開なんてするもんじゃないのは、わかっているけど。そう呟きながら美夜は贄野にどうぞ? と手で主導権を渡すようなそぶりを見せた。主導権もなにも、元々贄野のターンなのだが。
 ち、っと軽く舌打ちした贄野だったが、次の美夜のターンに展開されないようにと対策を講ずる。


「《エネアード》効果発動!
 オーバーレイユニットを一つ使い、ドラゴン族である手札の《神龍の聖刻印》をリリース! そしてそのリリースしたモンスターの枚数……つまり一体、フィールドに存在するカードを破壊する!
 俺が破壊するのは、《ルーチェ・ステッラ アリエーテ》!!」
「げ、召喚したばっかなのに」


 言葉とは裏腹に嫌そうな表情は一切浮かべない。むしろその状況を予測していたと言いたげな顔で破壊されるアリエーテを見つめていた。
 アリエーテが破壊され綿が霧散するその瞬間、くすくす、と笑う声が聞こえたような気がした。


「俺はこれでターンエンドだ」
「はいはーい。じゃあボクのターン!」


 極めて明るく美夜は言う。その奥に隠した闘志は、おそらく贄野には計り知れないものだろう。
 デッキに手をかける。そこに宿る精霊達の声が聞こえた気がして、胸が高鳴った。待っててねみんな、もうすぐ出番だからね。小さく独り言のように呟いて、カードをデッキから引き抜いた。


「──ドロー!」


 引いたカードを見つめれば、にぃ、と妖しげな笑顔を浮かべて贄野を見つめ直した。
 この勝負、もらったから。そんな呟きは、果たして聞こえたのだろうか。






(小童だからって舐めてると痛い目にあうからね)

僕らが生きた世界。