ホワイトデーが待ち遠しくて
「野郎ども! あたしのチョコが欲しいか!!」
「毎年毎年、よく飽きねえな名前……」
「ははは、彼氏いない歴イコール年齢のあたしはこうでもしないとなぁ……今年はどんな感じだ? 凌牙」
「……言わなくてもわかるだろ」
言ってて悲しくなってきたが事実なのでそれを撤回したりはしないけど。ばら撒くために持ってきたチョコの山々が何か言いたげにこちらを見ている気がする。隣に座った凌牙が呆れ顔でこちらを見ていた。
二月中旬、バレンタインデー。
あたしにとってこの日は特別な日でも何でもなかった。色恋沙汰に疎……いわけではないけれど、想いを成就させることが出来ず14年を生きてきた私にとって、この日はただの日となんら変わらなかったのである。数年前までは。
一応、こんなあたしも数年前には頑張って告白しようと目論んだことがある。バレンタインデーに告白なんてベタベタもいい所だが、かつて小学生だったあたしには、夢のような計画だったのだ。
一人だけに渡すのが小っ恥ずかしいから、クラスメイト全員にばらまいて。本命だけには少し手の込んだものを渡して、その中に手紙を入れたりして。
いざ当日、渡せたはいいんだけれども。
手紙を読んだのか読んでないのかは分からないがその相手──凌牙は普段通り(とはいえ、幼馴染だから他人との接し方とは明らかに違うのだけれど)あたしに接してきて。ホワイトデーのお返しもごく普通で、まぁ、言外にフラれたことを察した。あえて言葉にしなかったのは、関係性を崩すのが面倒だったからだろうなとか、そんなんだろう。
……あたしの初恋はあの時終わったわけだけども。結局諦めきれずに、それを引きずって、今に至る。
そしてあの時の名残で、あたしはバレンタインデーにはチョコバラマキマシーンと化している。別にそんなのやめればいいんだけれど、また凌牙とのチャンスがあるんじゃないか、という未練がましい理由でやめられなくなっていた。どれだけ引きずるんだ、と思わなくもない。
「飽きる飽きねえはともかく出費は」
「超痛い」
「だろうな……」
少ないお小遣いを毎年やりくりしてこの日頑張っているけれど痛いものは痛い。自分で稼げる歳でもないし。
とは言っても、だ。
「まぁホワイトデーのお返しで得するから……」
「屑かよ」
「否定出来ないなぁ……」
バラマキマシーンをしていていいところは偏にこれだ。別にお返しを期待してやっている訳では無いけども、くれる子はくれる。毎年別にいいよー、なんて言ってみるが、それでもくれる。それ以上拒否するのも失礼なので、貰う。そうしていると、結局明らかに得をすることが多くなっていた。
申し訳ないと思う気持ちはもちろんあるけど、あげてるのは事実だしこれでいい気もして。うーん、よく分からない。
やめた方がいいのかなぁ、なんて思ってると目の前のチョコの山から凌牙が一つ取っていった。
「減らねえのも困るだろうし貰うぜ、腹減った」
「あーあーあーちょい待ち、凌牙はこっち」
ごそごそと鞄から分けておいたチョコの包みを取り出して凌牙へ投げた。……結局凌牙のは毎年別に作ってるあたり未練タラタラだな、あたし。
包みを受け取った凌牙はさっさとラッピングを解いて中を覗いた。少しくらいラッピングに目を向けてくれても、と思ったけれど、凌牙がそれをしたらそれはそれで気持ち悪いので何も言わない。
そのまま中身を取り出して、と思いきや、しばし硬直。……どうしたんだ?
「凌牙?」
「……ああ、いや、ンでもねえ」
……変な凌牙。
思わず言いそうになった言葉を飲み込んで凌牙を見続ければ、見るなと額を弾かれた。痛い。璃緒と同じ基準で私を見てるんじゃないだろうか、あたしは璃緒ほど強くはないというのに。
……と、噂をすれば影がさす。いや、別に噂をした訳ではないけど。教室の入口からこちらに向かってきている璃緒を見つけてへらりと手を振った。笑顔を返してくれる璃緒は相変わらずいい子だ。……たまに怖いけど。
「おはよー璃緒、あんたもあたしのチョコ貰いに来た?」
「おはよう名前、そんなところね。いただいても?」
「勿論」
璃緒には璃緒用の包みを渡す。やっぱり幼馴染にはバラマキマシーンとしてチョコを渡すわけにはいかないし。だから凌牙にも個別包装のチョコを渡せるわけだけど。……やっぱり特別というのはこの年になっても恥ずかしいし。
お返し、と言わんばかりに璃緒もあたしへと包みを差し出した。このチョコレート交換はもはや行事のようなものだ。
ふと璃緒が凌牙に目をやる。あら、と気づいたように彼女は口元に手を当てて。
「今年も無事にもらえたのね。で、今年も手紙は入ってなかったのかしら?」
「ば……っ!」
ガタン! と大きな音を立てて凌牙が立ち上がった。あらあらと笑う璃緒、狼狽える凌牙、話がわからないあたし。はて、と首を傾げれば、凌牙に睨まれた。なんで、と思ったけれど本当にわけがわからないのでぶんぶんと首を振れば、凌牙は深くため息をついて座り直した。……なんだったんだ一体。
どういうこと、と璃緒を見れば意味ありげにウインクをされた。ちくしょう可愛いな、あたしが男だったら惚れてたぞ。……どうもあたしは神代の血筋に弱いらしい。
「今年こそはしっかりするんでしょう? 手紙の有無くらいで肩を落とすなんて、はっきり言ってありえないから」
「言わせておけば璃緒テメェ……!」
「何?」
「ぐ……」
……元札付きが聞いて呆れる、双子の妹にはとことん弱いんだから。というか、璃緒が強すぎるだけなのかもしれないけど。
しかししっかりするとはどういうことなのだろう。あたしがいる所でする話でもなさそうなんだから、家でやればいいのになー、仲いいなこの兄妹は。
そんなことを思いながら、机に乗ったチョコレートの山をクラスメイトたちに配るために立ち上がろうとして、璃緒に止められた。肩に手を添えられて立つなとでも言いたげに。
君ら兄妹の兄妹喧嘩になぜ付き合わせられなければならんのだ、と口をとがせればまぁまぁと微笑まれた。笑顔が可愛いせいで何をされても許してしまいたくなるが本心は変わらんぞ璃緒。
「名前、今年のホワイトデー楽しみにしておいて」
「へっ?」
「おい璃緒っ!」
「きっと悪い風にはならないわ。ね、凌牙?」
にっこり。凌牙にとっては天使のような悪魔の笑顔、なんだろうか。盛大に舌打ちをしてそっぽを向いてしまったが、否定しないあたり本当らしい。
悪い風にはならない、ホワイトデーを楽しみにしておけ。いったいなんなんだろう。まさか告白され返されるかなぁなんて思いながら私はへらりとまた笑った。
その妄想が現実になるのは一ヶ月後の話である。
ホワイトデーが待ち遠しくて
(あの時できなかった返事を今したい、のはいいけれど)(向こうから手紙が来てない、きっかけなしで出来ない、なんて言わないわよね? 凌牙)
Title...ポケットに拳銃
2017.08.29 執筆