我儘で理不尽なジャック
中身が子供のまま大人になる奴というのはとんでもなく面倒臭い。
お金が無限にあると考えているような振る舞いに、ワガママで、理不尽。
こちらの事情なんて御構い無しに、好き勝手やり放題。
この、目の前にいる返り咲いたキング、ジャック・アトラスも、中身が子供のまま、という括りでの例外ではない。
「む、名前、珈琲のストックが切れたぞ。予備は無いのか」
「……あるわけないでしょ、今月三回目よ?
なんで大量に買ってるブルーアイズ・マウンテンがこうも簡単に消えて行くの……食費にダイレクトアタック過ぎて辛い……」
誰があんたの生活の管理をしているんだ、と視線を投げかけてもジャックはきょとん顔。ふざけんな。むかつく。
私はジャックの姉、と呼ぶべき立場にいる。勿論本当に血が繋がってるとか、私らの兄弟が結婚したとかそういうわけではない。私らに血縁関係の人はいない。
幼少期を同じマーサハウスで過ごし、私の方が年上だったこともあって、姉として過ごしていた。勿論、遊星やクロウも私の弟みたいなものである。
彼らは確かに、私の自慢だ。……自慢ではあるけれども、それは表の話。
こうやって日常生活は、壊滅的なわけだ。私がいなければ多分すぐにボロボロになるだろうくらいには。
そもそも、私だってジャックと同居する気なんて全くなかった。
それでも私がここにいるのは、ジャックがシティから出ていく日半ば強制的に連れていかれたから。
連れ出されたあの日の事は絶対に忘れない。首根っこ掴まれてWOFに乗せられたんだから忘れられるわけがない。
「何ッ、今すぐ買いに……」
「行かないし、行かせないわよ、ばか!
お金は無限じゃないの。そりゃあ昔よりはあなたの稼ぎが増えたし、余裕も多少あるけれど!
そういう問題じゃないの。……このままじゃジャック、私がいなくなったら破産するわよ?
無駄遣いに無駄遣いを重ねまくって……。いつまでも私はあなたの姉でいられるわけじゃないんだから、いい加減にお金の使い方を覚えなさい!」
本当に困ったものだ、この我儘義弟は。弟離れしない私も悪いんだろうけれども、そもそも強制的に連れて来られたんだから拒否もなにもあったものじゃない。
このシスコン――と定義していいのかはすごく疑問だけれど――のおかげで私は、今まで恋らしきものをしたことがないのだ。
恋人……のような人が居たことは何度かあったけど、このシスコン、もといジャックを含めたチームサティスファクションのメンバーが脅しをかけたらしく逃げるように去っていった。
後日彼らに何処かで鉢合わせたりすると途轍もなくゆがんだ……形容するなら、恐怖に濡れた表情をして逃げていく。
……本当に余計なことをしてくれたものだ、このシスコンどもは。
はああぁ、と大きいため息が出る。このままじゃ私、結婚できないんじゃないのだろうか。
恨みつらみを込めた目でジャックを睨む。しかし残念ながら私の想いは届かなかったようで、またしてもきょとんとされる。
「名前、何故お前がいなくなる?」
「何故ってそりゃあ、私だってそろそろ結婚しないと……」
そりゃ、ジャックはモテるだろうから結婚相手には事欠かないでしょうけれど、私は残念ながらそうじゃない。
いい加減結婚相手を探さないと、生涯独身を貫きそうで怖い。
だから私は――
「……なんだ、そんなことか」
「そんなことって、あんたねぇ……!」
「俺と結婚するお前が何を悩んでいる」
「私だって悩ん――は!?」
「……?」
待って。すごく待って。今ジャック、何か変なこと言わなかった?
何を言ったの? ……聞き間違いだよね? 聞き間違いだと言ってちょうだい。
「どうした」
「わ、私、ジャックと結婚するの? ……空耳よね?」
「何を言っている、当然だろう」
「ええああ、とうぜ……当然!?」
何が? 何が当然なの!?
混乱してきたぞ、私。いったい何が当然なの?
私はジャックの義姉だ。そんな私がジャックと結婚する? どう考えてもおかしいでしょう!?
……いや、そういえば私とジャック、血は繋がってない。ということは結婚してもなんら問題はないということだ。
……え、え? 私ジャックと結婚するの? 今までそんなこと考えたこともなかったんだけど……!
「何を驚く必要がある。今までもずっと共に暮らしていたのだ、改めて言う必要もないだろう」
「な、何それ……!?」
ジャックの理不尽な言い様に頭を抱える。
どう答えるのがいいのか分からなくて、また大きくため息。
顔を上げると、ふんっ、と鼻を鳴らしたジャックが王者の様に笑っていた。
我儘で理不尽な君
(なんでこんな我儘に育ったんだって?)(答えは簡単)(キングだからだ!)
2014.03.27 執筆
Title…反転コンタクト