いつまでたっても子供な遊馬

 ドン・サウザンドとの戦いが終わってしばらくが経った。
 バリアン七皇の七人は人間になって、月で息を引き取ったカイトも戻ってきた。勿論、バリアンとの戦いに敗れたみんなも、私も。
 ハートランドも、いつも通りの毎日が続く。学校に行って、先生の話を聞いて、たまに居眠りなんかしちゃって怒られる。くだらない、だけど今の私には何よりも大切だと思える、日常があった。
 そんな日常を取り戻したヒーロー──本人に言ったら調子に乗るのは目に見えてるので絶対に言わないけど──、私の幼馴染は。


「シャーク! デュエルしよーぜデュエル!!」
「うるせえ、騒ぐな。宿題は出てねえのか? 遊馬」
「うっ……」


 至っていつも通りだ。
 世界を救ったから成績が良くなるとか、世界を救ったからみんなに崇められるとかそういうことはない。ただ昔より交友関係は広がったのかな、って感じはするけど、それだけ。
 いつも通り凌牙くんにデュエルを申し込んで、宿題のことを思い出させられて結局出来ずじまい。ちゃんと宿題終わらせて休日に挑めばいいのになぁ、と思わなくもない。

 元札付きの不良とあそこまで仲良くなれたのは、今までの経験からなんだろう。
 トロン兄弟やフェイカー、バリアンとの戦いに……No.の事件がなかったら、果たして遊馬は凌牙くんと仲良くなれていたんだろうか?
 そんなことを思って彼らを見つめていると、凌牙くんと目が合った。やっほー、と手を振ってみればため息を吐かれたが、手を振り返してくれたので嫌われている訳では無いようだ。
 そのまま凌牙くんは私に近づいてくる。なに? と首を傾げれば、遊馬を指さして。


「……よう名前。こいつの宿題見てやれ。いい加減デュエルデュエルってせびられて、毎回宿題に阻まれんのもイラッとくるぜ」
「なるほど、つまりツンデレ」
「ちげぇよ」
「ツンドラ?」
「ツンデレね」


 つまりさっさと遊馬の宿題終わらせてデュエルさせろ、と。素直じゃないなぁ。
 でもまぁ確かに、凌牙くんが私を頼るのもわかる。私と遊馬とは幼なじみだし、デュエルができるからか、凌牙くんとの会話は凌牙くんと小鳥のそれよりは多いし。あと、遊馬は見張ってないと宿題忘れるのも良くあるし、それを自分とのデュエルを言い訳にされてはたまったものじゃないからだろう。
 というわけで、白羽の矢が立ったわけだ。ならばその大役受けてやろう。いや別に大役ではないけど。……遊馬とは話したいこともあったし。


「ほら遊馬行くよ、せっかく凌牙くんがチャンスくれたんだから」
「うぐ……なぁ、名前がやってくれるとか……!」
「それはない。じゃあね凌牙くん、なるべく早く終わらせるから」
「約束だからなシャークー!」


 凌牙くんに手を振って宿題のできる場所を頭で考える。図書室とかでもいいけど、やっぱ話はしたいし教室かな。
 前とは違う、ひとつ少ない声に物足りなさを感じてほんの少しだけ寂しくなった気がした。





「だからこっちの計算はこの公式を当てはめてー……」
「おおお……? つまりこういうことか?」
「……正解。やれば出来るんだから」


 結局教室で遊馬の宿題を見てやることになった。隣の席に座った遊馬は、それなりに真剣に取り組んでる。家でもいい気がしたけれど、帰って宿題を見て凌牙くんに会いに行く、なんていうのが面倒だったからだ。
 最初遊馬は頓珍漢な答えしか返してくれなかったけれど、ある程度教えたらちゃんと飲み込んでくれたらしい。……当たり前か。どれだけ不利な状況にあるデュエルを打開するだけのポテンシャルがあるのだから、頭の回転はいいはずなんだ。それをずっと覚えていられるかはともかくとして、教えたことをその場でやるだけの力はある。それが今後生きていくかは別として。
 その、遊馬のデュエルを支えてくれた彼は、今いないけど。


「流石名前だよな〜、教え方上手くてアストラルよりもずっと……」
「遊馬」
「うん?」
「無理して笑わなくていいよ」


 ぽつり、と言葉が漏れた。世間話をするかのように、なんの不自然さも孕まずに。自分でも驚くくらいだ。
 遊馬に視線を向ければ、その底抜けに明るかった笑顔がみるみる固まっていく。引き攣った笑顔から目を離せなくなる。ああ、やっぱり。


「……無理なんて、してねえぜ?」
「嘘。なら何でそんなに固まるの」


 私の指摘は図星だったんだろう。彼の鉛筆を持っていた手が止まり、少しだけ俯いた。
 まったく、わかりやすい。どれだけ馬鹿みたいに振舞ってても──実際馬鹿な部分があるとはいえ──、遊馬だって13歳の子供なんだから、当然といえば当然だ。


「……なんで、わかったんだよ」
「幼馴染だからじゃないの」
「けど、小鳥はンなこと一度も……」
「小鳥は配慮できる子だからね」


 カッコつけてる遊馬をそのままにしてあげたかったんじゃない?
 そう呟けば、そっか、と小さく返事が来た。私は小鳥ほど配慮できる子じゃないから、こんなことも簡単に言ってしまうわけで。まぁ、ふたりきりの時を選ぶだけの配慮はできるけど。


「……別にさ、周りに心配をかけさせないためとか、そういうのを否定したりはしないけど。私の前くらい、気を抜いてもいいんじゃない?」
「…………」
「胸くらいなら貸すよ」


 ふざけて両手を広げてみた。流石に断られるかな、と思ったけどそれは思い過ごしだったようで、遊馬はおずおずと私の腕の中に収まった。……これは意外だ。
 大丈夫だろうか、と遊馬の顔を盗み見ると、ぼろぼろと大粒の涙を零していた。ああ、やっぱり。


「……アストラルがいなくて、けど、もう心配かけさせねえって決めたから」
「ん」
「だから、……名前の前だけでは、ヒーローじゃなくてもいいよな」
「うん、いいよ」


 遊馬だって、私と変わらない子供なんだ。



いつまでたっても子供な君
(みんなのヒーローの、私だけが知ってる一面)



2017.09.02 執筆
Title...反転コンタクト
僕らが生きた世界。