[“私”の証言]

紗江ちゃんのことですか? ……何でも話せる親友やと思っとったのに、何にも知らないと分かってショックです。
はい。一年の時から同じクラスです。席がとなり同士になって、あれやこれやの世話を焼いてくれたんが紗江ちゃんでした。私は昔から人見知りするいうか、友達作るんが苦手で……。せやから、紗江ちゃんは天使みたいな感じです。え? いえ、大げさやなく、ほんまにそう思ってんですよ。
紗江ちゃんは何でもできました。頭もええし、スポーツかてできるし、美人やのに鼻にかけてへんし、みんなに優しいし。はい。みんな紗江ちゃんが好きやったと思います。
例えば、となりのクラスのO君。あ、プライバシーの関係で名前は伏せさてもらいます。
O君は密かに紗江ちゃんに片思いしてたみたいです。本人は隠しとるつもりやったみたいですけど、結構周りにばれてました。ふふ、そういうもんですよね。O君はとても素直やし、友達思いのええ人みたいやから、付き合ったら紗江ちゃんは絶対幸せやったと思っとったのに。
紗江ちゃんはO君の友達のS君と付き合ったんです。
ええ。紗江ちゃん、イケメン好きなんです。まあ、誰かてそうやと思うんですけど。……はい。確かに。ちょっと酷いな、思いました。紗江ちゃん、絶対O君の気持ちに気づいてたはずやのに。その後のO君? はい。ちょっとへこんでました。はい。その辺の状況は察してください。
S君は結構モテてました。テニス部の部長さんなんです。私のまわりにも、後輩でもファンの子ぎょうさんおりました。話しかけづらいわけではないんですけど、うーん、なんていうんやろ、遠くから見ていたい? 観賞用? て、それは失礼やな。
よう分からんのですけど、そんな感じの人です。せやから、積極的にS君に話しかける紗江ちゃんは異質やったと思うんです。はい。その通りです。S君に想いを寄せてた子は、紗江ちゃんを敵視してました。
え? 私? 私は紗江ちゃんをそう思ったことなんて……え? ああ、そっちですか。気になっていないと言えば嘘になります。S君のことはカッコイイと思ってました。せやけど、付き合うだとか、そんなことは考えたことはありませんでした。ほんまにお似合いの二人やったから。
……ええ、はい。そうです。そう思えへん子もいてたんです。紗江ちゃんにあからさまに暴言吐く子もおったし、いやがらせみたいに物隠したりする子もおったくらい。
紗江ちゃんは初め、気にしてへん様子でいたんですけど……やっぱり堪えてたみたいです。だんだん病んでいった、ちゅうか、イライラしてました。そのころからやったと思います。紗江ちゃんが家出したりするようになったんは。
S君の気を引きたかったのやもしれません。もともとS君を束縛することも多かったし、常に一緒におらんと不安やったみたいです。熱が出たから学校休むとか、親とけんかしたから家出するとか、そういうんをメールや電話でS君に伝えてたみたい。そんなとき、必ずと言うてもええくらい、心配したS君が私のとこまで来て、私に頼むんです。
「紗江ん家、一緒行こ」って。
びっくりするくらい鈍いですよね。私も最初は断るんですけど、結局断りきれんくなって一緒に行くんです。
こないだも、もう何度目かも分からん位ですけど、風邪ひいて休む言うた紗江ちゃんのお見舞いにS君と二人で行きました。部屋に入って、一番に眼に飛び込んできたんは……紗江ちゃんの、怒った顔でした。
「なんであんたら一緒におるん!?」
「まさか浮気しとるとちゃうやろね」
「殺す! 絶対にお前ら殺したる!」
紗江ちゃんは鬼の形相で一気にまくしたてました。枕やら、本やら、いろんなものが投げつけられました。……あんときは、今までにないくらい怒ってました。まあ、理由は分かりますけど。
……え? なんでそこまで知ってるんです? 調べたんですか? 相手が誰かとか……ふぅん。まあ、どうでもええのですけど。そうです。紗江ちゃんはS君が浮気をしていると思い込んでました。多分、それで不安になったんやと思います。せやからS君を束縛するようになったんです。
可笑しいですよね。私らまだ中学生ですよ? まだ子供の恋愛しかしてへんのに、大人みたいに浮気とか平気で言ってしまうの。ほんま、笑えますわ。紗江ちゃんの前で吹き出さなかったのがせめてもの救い……。
え? 何言うてますのん? 浮気相手? それが私?……知ってたんですか? 知っててわざと? そうですか。あんた腹ん中真っ黒なんちゃう?
さっきも言うたけど、私らまだ中学生です。浮気だとか、そんなんあるわけない。せやから、これは浮気と違うんです。S君とはただの友達やし。向こうもそう言うてますし。
たまに手をつないだり、日常的なメールや電話をするだけです。健全です。大人がするみたいな汚らわしいことは一切してません。全部紗江ちゃんの妄想なんです。
紗江ちゃんの自殺の理由?……知りません。心の闇だとか、ニュースでは騒いでましたね。そうなんとちゃいますか?そんな、闇だとかそんなんは誰にだってあるやろ。あんたにも。私にも。
……そうです。前の日に大喧嘩になりました。S君のこととは関係ありません。紗江ちゃんは最後までそのことを知らないままでした。他のことで喧嘩になったんです。……まあ、ちょっとした隠しごとがばれたんです。
「何でも話せる親友やと思ってたのに!」て、紗江ちゃん叫んでました。ショックやったみたいです。私は最初からそう思ってませんでした。え? 知らんの? 女の子て、嫌いな子ともにこにこ笑って話せるんですよ?表ではお互いを褒め合って、友情確かめあって、そんで裏では悪口言うて。ほんま怖いですよね。
ええ。そうです。やけど、自殺の原因とは関係ないです。ですよね。よくあることやし。
ほんなら帰ってもええですか? ……うーん、じゃあ、最後にひとつだけ。一つだけなら答えます。……え? 紗江ちゃんが一番憎んでいた人? 私に訊くんですか? そんな……一人しかおらんよ。誰かって?
……それは……。



それは私と彼女は言った。

2013.10.01 end.


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