はじめまして?転校生





つくづく、日本は平和だと思う。護身用にとベルのナイフを隠し持ってはいるけれど、使うことはないだろう。それにしても、出席日数が足りないとかで、学期が終わる残り数週間をなぜか、こちらで過ごす嵌めになるとは。暗殺者だよ、学歴なんて必要かな。
どこぞの家庭教師くんが、「ツナでさえも中卒なのに、お前んところの娘っ子は…」なんて小バカにした挑発をするものだから。真に受けるバカな隊長なんだよ、うちの隊長は。


「ご、ごめん。…まさか本当に来るなんて思わなくて。」

『別に、私が決めた訳じゃないし。ついでに日本での仕事とか回してくるんだよあの人。それよりさ、出席日数って、絶対全然足りないよね。数ヵ月は来てなかったよ?』

「それが、短期留学とかなんか、よく分からないんだけど。手続きしたりしたみたいで。」

『そこまでして私を卒業させたいかねー。あの、家庭教師くんは。』


懐かしい光景、どこか木の匂いがする教室。開けっぱなしの窓から入る湿った空気。溢れる日本語。暗い髪色、うん。日本。


「転校生だって!」

「男?女?」

「女!」


どうしてこのクラスにばかり転校生が来るのかな。なんて疑問は置いておこう。考えてもきっと無駄。それより、転校生か。来たところで私には関わりはないんだろうけれど。


「はじめましてー。針山姫子でーす。席は、…あ、そこ。お前退いて。」

『は?』


私の席は教室の角。そこを指差されて退け、の一言。


「あー、違うって。その隣。アタシ男子隣とか嫌だし。」


針山姫子とやらは黒板から離れ、私の隣の席へと向かう。何だろう、この、何か、誰かを彷彿とさせる行動は。


「よろしくー。」

『よ、ろしく。』
















私の日本での任務のときに使う宿は、リングをめぐった戦いの時に買ったマンションの一室。私専用のようになっているせいか、最後に来たままになっている。


『ただいま、って誰も居ないんだよね。』


スーパーで買った食材を早いところ閉まってしまおう。と、リビングの扉を開けようとしたときだ。誰か、いる?


『…だれ?』


って、聞いて答える馬鹿はいないか。この気配は、うん。間違いない。


『ベル?』

「んー?」

『来るなら言ってよ、何?仕事?』

「っしし、そんなとこ。晩飯作んの?」

『作るけど。』


貴女の口に合うとは思いません。


『ねぇ、そー言えば聞いてよ。今日さ、学校に転校生きてさ。』

「へぇ。」

『女。ギャル…まではいかないけど。うるさそう。そいつがさ、私の隣の席の男子を退かせたんだよね。どこぞの傍若無人な王子様みたい。』

「っしし、ウケる。で、そいつと話したわけ?」

『いや、別に。教科書見せてーって馴れ馴れしいから渡して寝た。』

「話してみろって。案外おもしれーかも。」

『ベルと気が合いそうだけど?その子。名前も針山姫子、あだ名は姫、だって。ほら、念願のお姫様ゲットだよ。』


思えば、このときに違和感を感じておくべきだったと思う。濁す仕事、やけに食い付く転校生の話。


『明日さー、なんかここらへん案内してって、言われて。面倒だなぁ。』

「女友達いねーし、いいんじゃねーの。」

『うるさいなぁ、友達なんて出来てもどーせすぐバイバイだよ。』


あと卒業まで数週間。こんな時期に転校生って時点でも変な話なのに。針山姫子って、名前にもピンと来なかった自分が恥ずかしい。

この後も、話題は針山姫子について。そして夜ご飯のすき焼きを平らげて、宿題を少し。ベルは空いた部屋にベッドやら色々持ち込んでいたらしく、部屋にこもっていた。


『ベルは明日任務?』

「っそ。たぶん明け方には出てるから。」

『帰りは?』

「早いんじゃねーの?」

『ご飯はどーする?』

「その友達と食べればよくね?」


そういえば、ベルは私が誰かと外食をすることを勧めてきたことは無かった。それなのに、今、初めてそんなことを言われた気がした。

…相手が、マフィアでも何でもない子だから?
単純にベルが針山姫子について興味があるから、だったりして。


『めちゃくちゃ高い店に行ってびびらせよっかな。中学生には到底払えなさそうな所。』

「例えば?」

『寿司、とか。』

「っししし、いいんじゃねーの?」





(ねぇ、僕も来てること言わないの?)
(だまっとこーぜ、だってアイツ。全然気付かねーし。)
(はぁ、遊びに来た訳じゃないんだよ。)
(分かってるって。)






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