避けられない共依存関係



「修!」
「かあ、さん?」
「良かった」と力強く抱きしめられる。久しぶりの温もりに心が軽くなった。でも、どうして母さんがここに?
「修。女性があなたを監禁していると自主してきたの。証言のとおりに訪れたらあなたが眠っていたの」
「そうだったのか……その、先輩はどこに」
「先輩だったのね。その人は今警察で事情聴取を受けているわ。修が無事で本当に良かった」
「母さん」
 朝まで眠っていたのにいつの間にか気が張りつめていたのか、フッと落ちてしまった。



 なぜか食事が喉を通らない。
 病院生活を始めて三日目。思考も落ち着かない。今までのように考えることがなぜかできなくなった。それを考えることもできない。食事を摂っていないにも関わらず吐き気があらわれる。
 他にも色々あるけど、もうわからない。この症状はベンゾジアゼピン離脱症候群と言うらしい。ベンゾ……なになには抗不安薬で、長い期間をかけて服薬をやめていくものらしい。
 この前レントゲンを撮ったとき、胃のあたりに影があった。悪性の腫瘍、らしい。血液からは工業塩の成分が抽出されたとか。食事がしょっぱかった原因はここにあるかもしれないらしい。
 つまり、命の危機にあった。今もあるのかな。自分の状況がよくわからない。さっきから手の震えは止まらないし、こうなった原因は先輩から離れてしまったことなんじゃないかと思えてきた。先輩は、確か警察で取り調べを受けているらしい。
 先輩は悪いことなんて何もしてない。ただ、生活を提供してくれた良い人。なぜ誘拐犯として取り調べを受けなければならないのか。先輩の元へ行かないと……
「修、安静にしてなさい」
「でも先輩が」
 ベッドから足を下ろそうとすると、母さんが慌てて止めてきた。
「修」
「でも! 先輩が、先輩が……」
「彼女なら大丈夫よ」
「なら、会わせて。無事を確認したい」
「それは無理なの」
「どうしてだよ!」
 先輩は、先輩はぼくを助けてくれた。先輩がいたから死なずに済んだ。先輩は命の恩人なんだ。それに、病院食なんかよりも先輩のご飯が食べたい。先輩に、会いたい。
 先輩はぼくがいないとダメだと言ってくれた。ぼくもそうだ。先輩はぼくのすべてで、ぼくのすべては先輩だ。それなのに、警察が突然それを邪魔してきた。悪いのは警察で、先輩は何一つ悪いことをしていない。
 次はぼくが先輩を助ける番だ。



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