夜遊びを終えたヤミカラスたちが自分の巣へ帰る頃、白くなり始めた空といっしょに、私の朝ははじまる。
一片の汚れも許さないほど白く清潔に洗われた着物を抱え、広い広い屋敷の一角を目指す。
声をかけ部屋に入ると、そこには既に足音で勘づいていたように布団から身を起こしこちらに顔を向ける老人が。冬の朝に似た冷たく身が締まるような視線は、別に不機嫌な訳では無いことを理解するまで多くの時間を費やした。

「お早うございます、おじい様」
「おはよう、チサト」

挨拶とともに持参した白い着物を手渡す。
受け取った着物の白さを確認するようにとっくりと眺めてから、祖父は立ち上がり寝巻きを脱いだ。

「朝ご飯は如何なさいますか?」
「戻ったら食べよう、用意しておくように」
「はい」
「行ってくるよ」
「はい、いってらっしゃいませ」

まるで主人と使用人のような声色。
祖父はこのフスベシティを統べる今代の長老で、朝から晩まで“りゅうのあな”で修行に励んでいる。
ドラゴンへの信仰が深いこの町にはドラゴンつかいと呼ばれるトレーナーが他の地方からも集まる。
その地の長としての誇りがそうさせるのか、随分高齢になった今でもぴしりと背の伸びた着物姿には全くの歪みもない。
りゅうのあなの最深部に建つ祠での禊も、1日たりとも欠かさない。
真白な着物で外へ出ていった祖父を見送り、ふと空を見上げる。
禊の後行われるであろう朝の修行に参加すべくりゅうのあなへ向かうドラゴンつかい達が、一人また一人と、自慢のマントをはためかせながら次々に通り過ぎてゆく。

登ってきた朝日に目を細め、あゝ今日も晴れそうだとか、来客用の布団を干そうかな、なんて頭を巡らせる。

十五になった今でも、私はこの町から、この屋敷から出ていくことが出来ずにいる。腰に巻かれたベルトと、ただ1つ繋がったモンスターボールだけが、私がまだトレーナーであることを証明してくれる。

こおりのぬけみちが大きなカゲを作り、一年を通じてひんやりとしているりゅうのあな。その空気さえ、私は知らない。


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