赤ずきん君と狼女ちゃん
※血ハロのしんどさ&本編展開ガン無視
※ちびリベ20話に刺激されました
「……それで、マイキーは赤ずきんちゃんが似合うって話になったんだよね」
「何でだよ!オレもケンチンみたくかっこいいヤツがいい!」
「んー……まぁ、万次郎にフランケンシュタインは似合わねぇよなぁ…」
すっかり夕飯も食べ終えてだべる中、ウチはマイキーと珠綺にさっきまでヒナと電話で盛り上がったネタについて話してみた。内々で仮装するとしたら、みんなどんな格好が似合うだろうか。ウチの言葉にマイキーは随分と不服そうだっまけど、一方で珠綺はポテチを食べながらニヤニヤ笑っている。
「エマが小悪魔でヒナちゃんが魔女だっけ?うん、似合うんじゃない?可愛い可愛い」
「つーかオレが赤ずきんなのにタケミっちがドラキュラってのも納得いかねー!!」
「そうだなぁ……タケミっちっていつもボロボロだし、ミイラ男のがピッタリじゃね?」
「アハハ!確かに!ヒナには悪いけど、タケミっちにはそっちの方が合ってる!」
だろ?ってケラケラ笑う珠綺。うん、むしろそっちが正解!とウチ。マイキーはというと、さっきの赤ずきんちゃんがよっぽど気に食わなかったのかずっと黙り込んだままだ。
「珠綺は……」
「ん?」
「珠綺は何の仮装にするつもりだよ?」
「え……いや、実際にやるワケじゃねーし……むしろ、ハロウィン今日なんだからもう間に合わねぇだろ」
「珠綺は!何の!仮装すんの!?」
ダンッとテーブルを両手で叩きつけ、マイキーは身を乗り出して珠綺ににじり寄った。そんなにムキになる程の事でもないと思うんだけど……やっぱマイキーって子供よね。でも確かに、珠綺が仮装するとしたら何が良いんだろう?
「そうねー……珠綺は背も高くて綺麗な顔してるからなぁ……」
王道だと猫娘とか……あ、囚人も似合いそう!最近じゃゾンビメイクも流行ってるらしいし、ポリスの格好でゾンビとかも良いんじゃない?
「んー……あ、私アレやりたい」
「え、どれ?」
「狼男」
え、狼男……?あの月を見たら獣化するってやつ?
「ダメダメダメ!!」
「え、何で?いいじゃん狼男。ワイルドでさ」
「どうして珠綺はそんな感性なの!?そんな着ぐるみっぽい仮装じゃ珠綺の見た目が台無しじゃん!!」
全力で否定すると珠綺は唇を尖らせてむくれ顔を作った。確かに珠綺は男装も似合うだろうからそれなりにカッコイイ狼男の仮装が出来るだろうけど、こんな時くらい可愛い格好の珠綺を見たいじゃん!
「ねぇ、マイキーもそう思うでしょ?」
さっきから一体どうしたっていうワケ?ウチが同意を求めても、マイキーはずっと「うーん」と唸り声を上げたまま何かを真剣に考え込んでいる。そして暫くして、何かを閃いたかのようにパッと顔を上げた。
「いいじゃん!狼男!」
「えぇ!?マイキー正気!?」
「だろ!良いよな、狼男!!」
げんなりと項垂れるウチとは対照的で、珠綺はとても嬉しそうにガッツポーズを作っている。珠綺も珠綺ならマイキーもマイキーだよ……好きな女の子の可愛い格好見たくないわけ?
「だってさ、赤ずきんちゃんと言えばオオカミだろ!」
「え……うん、まぁ……」
「それって、オレが珠綺に食われちまうって事だろ?」
「え……いや、それはどうだろ?」
……おや?さっきまでとは打って変わって、爛々と目を輝かせて詰め寄るマイキーを前に珠綺は少し焦った様子で目を泳がせ始める。
「オレ、珠綺にだったら食われてもいいよ」
「いやー…私は是非とも遠慮したい…」
ぐいぐいと顔を近付けて、いよいよ唇が付いちゃうかどうかというところでマイキーの動きが止まった。
「でも、ヤられるだけってオレの性分に合わねぇから……ヤった分だけ覚悟しろよ?」
「〜〜〜っ!!!」
え、チューしちゃう?しちゃうの?キャー!!実の兄と親友の胸きゅんシーンに口を抑えて悶えるウチ。エマ、目を反らしちゃダメよ!これはいつかケンちゃんとそういう風になった時の為の良い勉強になるんだから……!
「……私をヤりたきゃ腕利きの猟師でも連れてくるんだなッ!!」
「うぉっ!!」
ゴチンッ、と鈍い音がして、次の瞬間バタンッと地面が揺れた。キャーキャーと緩んでいた顔が一瞬にして真顔へと変わる。
「フンッ。第一、狼男が狼になんのは夜だけだバカめ」
勢いよくマイキーに頭突きをしたせいで珠綺のおでこが少し赤くなっている。うーん……その前に、珠綺は女の子なんだからそもそも狼男じゃなくて狼女だと思うんだけど。椅子ごと床に倒れ込んだ実兄に視線を向けると、おでこを抑えて痛みに悶えている。巷では無敵のマイキー≠ネんて言われてるけど、そのマイキーをいとも簡単にダウンさせられるんだから珠綺ってホントに凄いわ。っていうかマイキー、ちょっとダサいよ。
「はぁー……もう遅いし、そろそろ帰るわ」
「え、今日泊まってかないの?」
「そうしたいけど明日ゴミの日なんだよ。流石に次のゴミの日まで生ゴミ家ン中に置いとくのはちょっとなぁ……」
そう言って珠綺は飲んでいたコップやお皿を下げてくれた。はぁ……ホントに珠綺はよく出来た女の子だと思う。確かにマイキーはかっこいい自慢のお兄ちゃんだけど、珠綺の相手がホントにマイキーでいいのか時々不安になっちゃう。
「オラ万次郎、いつまで寝てんだ。さっさと行くぞ」
「……オマエがやったんだろ…」
恨みがましいマイキーの訴えを無視して、珠綺は先にリビングを出て行ってしまった。
「マイキー、早く行かないと珠綺が怒るんじゃない?」
「どうしてオレが怒られなきゃいけねーんだよ…」
ブツブツ文句を言いながらも、マイキーは
「んー………」
「どうしたの?」
リビングを出ていく寸前、マイキーはふむと腕を組んで首を傾げた。
「そっか……夜になんねーと狼男は獣化しねぇのか……」
「え、まだそれ考えてたの?」
自分が言い始めた事とはいえ、流石に引きずりすぎじゃない?
「……だったら、こっちから探しに行って襲っちまえば良いだけだな」
「は?」
「じゃあ行ってくるわ。エマ、戸締りはしっかりしろよ!」
不穏な言葉を残して去っていくマイキー。……珠綺、ゴメン。マイキーがただの赤ずきんちゃんで済むはずが無かったんだ。オオカミ女ちゃん、その赤ずきん君は貴方が捕食出来るようなか弱い獲物じゃありません。赤ずきんを被った、貴方以上に獰猛な獣です。
2021.08.23Twitterにて公開
2021.08.25修正