「安室さん。こんにちは。」

「こんにちは。ゆっくりして行って下さいね。」

「はい。」


愛未さんが通り過ぎてお手洗いに入って行く。
少し経った後、お手洗いから出て来た。


「梓。」

愛未さんはカウンターでデザートを運ぶ準備をしている梓さんに声をかける。
梓さんも笑顔で応えた。


「どうしたの?」

「今回のこと、本当にありがとう。梓が毛利さんと少年探偵団を紹介してくれたから無事に解決出来たよ。」

「ふふっ、大袈裟だよ。私はただ紹介しただけだもん。」

「そんな事ないよ。」


愛未さんは、僕の方は見向きもせず梓さんと会話を続ける。
てっきり、何があったのか相談してくると思ったが…


「何かあったんですか?」


聞いてから後悔した。
僕から聞く必要なんか無いのに。


「愛未ちゃん、大変だったんですよ。」


そう言って梓さんは、愛未さんが注文したシフォンケーキをカウンターに置いた。


「梓?」

「今席にある飲み物持ってくるから、安室さんに話してて。」

「え?」


梓さんが離れて行く。
愛未さんは離れた梓さんを目で追った後、シフォンケーキが置かれたカウンターの向かいに座った。


「お久しぶりですね、安室さん。」

「えぇ。」

「前のストーカーの件ではありがとうございました。朝には居なくてすみませんでした。」

「いえ、僕の方こそ全然起きれなくてすみません。」


他愛のない挨拶を済ませた頃、梓さんが愛未さんの飲み物を持ってきた。


「愛未ちゃん、新しい住居はどう?」

「うん、良いところだよ。今度泊まりに来て。」

「わーい!行きたい行きたい!」

「ま、待って下さい。新しい住居?引っ越したんですか?」

「はい。前のマンションで、ちょっと近隣トラブルがありまして…」


僕が愛未さんのストーカー事件を解決してから2週間。
たったの2週間だ。
その間に何があったんだ。


「いいんですか?」

「え?」

「安室さん、お仕事中なのに。私とお話ししちゃっても。」


成る程。
少し余所余所しく感じたのは、僕が仕事中だから気を使ったのか。
愛未さんの行動に納得した。


「仕事中ですけど、今の時間帯は暇なのでよろしければ話して下さい。」


これは本当のことだ。
店としては良くないが、今は暇な時間帯。
話を聞いていれば僕も暇潰しにはなる。
僕の言葉に、愛未さんは笑顔を見せた。


「安室さんに助けて頂いてから2日程経った頃なんですけど…」


僕の中で、矛盾と葛藤しながら愛未さんの話を聞く。
いくら複数の顔を使い分けていても、気持ちは1つの筈だ。
それなのに、今僕は頭の中で複数の感情と考えが入り混じっていた。



そんなすぐに問題が起きたのなら、何故梓さんに僕の連絡先を聞かない?
何故僕の出勤日を確認しない?
僕が今仕事中であることを気にしていたが、梓さんとは話してたじゃないか。
梓さんに促されるまで僕には話さないつもりだったのか。

いや、そもそも僕に報告する義務は無い。
僕を求めて欲しいわけでは無い。
僕達は親しい仲ではない。


この前は凄く近い距離感だと思っていた。
でも今日は、少し離れたように思える。









(あのストーカーの言葉が頭きよぎった。)

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