坂本さんは犬嫌い2
「お、こないだの奴じゃん。」
先の迷い犬に再び会ったので、こいこい、なんて呼んで見たらタシタシタシと可愛らしい足音を立てて寄って来た。お前まだ飼い主見つかんねーのかよ、と撫でると、まるでこちらの言葉がわかっているかのようにキラキラした瞳でこちらを見た。
「…坂本、逃げんなよ」
「…うるせー逃げてねーし!」
近付く犬を見てさっさと俺の背中に隠れた坂本は、じりじりと後ずさっている。犬を撫でながらちらりと後ろを見れば、ハッとしたように止まる足。「大丈夫だよ、ほら」と見せ付けるように撫でれば、おそるおそるこちらに近付くのが背中でわかる。
「…なんで猫は好きなのに犬はダメなんだよ」
「いや猫は可愛いだろ」
「意味わかんねー。犬だって可愛いだろーが。」
尻尾をぱたぱた振って、もっと撫でろみたいな顔をしてくる目の前のコイツは、他の犬より一段と可愛く見える。きっと可愛がられてたんだろう。お前ほんと何迷子になってんだよ。飼い主心配すんだろーが。
「触ってみろよ。」
「…なんかあったらどーすんだよ…」
「そん時ゃ俺が助けてやるよ」
溜息と失笑の混じった声でそう言えば、坂本は俺の後ろからわずかに身体をずらし、おそるおそる手を伸ばした。
犬の方も少しばかり心配そうな目で坂本を見ている。じりじりと近付く手と頭を見ていると、なんつーかアレだ、恋愛ドラマのキスシーンを見てるみたいにもどかしい。
なかなか近付かないのを見ているうちに、ちょっとばかりいたずら心が湧いて来た。
「わっ!!」
脅かすみたいに声を上げると、目の前の二人(厳密には一人と一匹か)はびくうぅッ!と擬音が聞こえそうなほど驚いて身体を跳ねさせ、俺を向いてギャンギャンと吠えたてた。
「ッ!な、にすんだよ葛西ぃ!!!」
「キャンキャンキャン!」
焦るその顔がなんだかそっくりに見えて思わず吹き出すと、「てめー何笑ってんだよ!」と拳が飛んで来た。
「いてーよバカ、だって仕方ねーだろ、お前らおんなじ顔してギャンギャン吠えんだもん!」
「お前が脅かすからだろ!!」
「あー、悪ィ悪ィ。あんまビビってるから脅かしたくなっちまって。」
お前まで脅かす気はなかったんだけど、と犬を撫でれば、坂本がじとっとした視線を向ける。
「あ?なんだよお前も撫でてやろうか?」
「俺は犬じゃねーよ!」
いやそれにしたってそっくりだったな、なんて思いながら犬を抱き上げて胸に抱く。大人しく懐に収まったことを確認して、坂本の手を掴んで犬の頭を撫でた。
「…ッ、」
「ほら、怖くねーだろーが。…ったく…そっくりなんだからちったぁ仲良くしろよ」
「…似てねーし!」
坂本は俺の手を振り払い、「でもそいつは…なんつーか大人しいんだな」と、わずかに安堵の混じる瞳で言った。
「おー、仲良くしろよ」
ギャンギャンうるせーんだから気が合うんじゃねーの、なんて軽口を叩いたら引っ叩かれた。
20170708
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