とても下品な話


「なぁ坂本」

やけに真面目な声で葛西は言った。その手にはビールの缶が握られている。いつの間に飲んでんだよ、と思ったけれど、その声があまりに真剣だったから黙っておいた。

「俺…、いや、なんでもねー…」

「なんだよ葛西。気になるだろ」

「お前が飲んだら教えてやるよ、」

素面じゃ言えねー、と缶を差し出されてしばし逡巡する。前回飲んだ時、俺は葛西にキスをしたらしいと聞いた(全く覚えてねーけど)。それなのに飲めなんて、余程話しにくいことなんだろうか。

「…わかったよ、」

缶を受け取り、半分ほど残っていた液体を喉に流し込む。空になった缶を返して「これでいいか?」と言えば、葛西は神妙な顔で頷いた。

「…俺、お前で抜いた」

抜く、の言葉の意味を考える。俺に思いつくのは一つしかない。

「…抜いたってなんだよ」

「抜くっつったらアレしかねーだろ!」

葛西は頬を赤らめながら声を荒げた。アレしかねーってことは、やっぱり…

「なんで俺で抜くんだよ!っつーかわざわざ報告すんな」

いや俺で抜くって一体どういうことだよ。と思ったところでそういえば自分も似たようなことがあったな、と思い至る。

「いや…なんか…申し訳ねーなと…」

葛西があんまり落ち込んでる様子だったから、思わず「別に、過ぎたことは仕方ねーだろ」と返した。あんな夢を見た後の自己嫌悪みたいなものを、こいつも今感じているのだろうか。

「…俺も、似たようなことあるし」

「なんだよ似たようなことって」

葛西は興味津々といった様子でこちらに身を乗り出した。こんなことならもっと酒飲んどきゃあよかったな、なんて後悔しながら、「お前の夢見て勃った、」と告げれば、葛西はゲラゲラと笑った。

「まじかよ!無意識とかそっちのがやべーな!」

酔っているせいか元々の性格か、あまり気にしてないみたいだった。うっかり殴られてもおかしくなかったな、と思うと肝が冷える。

「っつーかお前こそ俺で抜くなよ」

「俺だってムチムチボインのおねーちゃんが良かったよ!…でも、お前がエロいのが悪い。」

いや全く意味がわからん。男捕まえて「エロい」とは一体どういう了見だ。これ見よがしに溜息を吐きながら葛西を睨みつける。

「…俺の、どこがエロいんだよ…」

威嚇するみたいにポケットに手を入れて、一歩前に出る。返答次第じゃあ殴ってもいいだろうか。

「…ッ!そーゆートコだよ!!!近付くんじゃねえ!!キスすんぞ!!!」

葛西は真っ赤になって慌てている。睨んでるんだからちっとは怯め。なに余裕こいてんだよ、キスするってどんな脅し文句だよ。

「…やってみろよ」

ふん、と鼻を鳴らしながら言えば、葛西は勢い良く俺の胸倉を掴み上げた。あ、ヤバイ殴られる。と反射的にぎゅっと目を閉じると、むにゅ、と唇に柔らかな感触がした。

「てめーがキスなんかするから!…俺がお前なんかで抜く羽目になってんだ!ふざけんな坂本!!」

しかも覚えてねーってどういうことだよ!と捲し立てた葛西は、掴んでいた胸倉を勢い良く突き放した。
いや、だからってなんでキスなんか。と、いまいち状況が飲み込めず呆然とする俺を見て、葛西は満足げに笑って言った。

「お返しだバーカ!」


20170606