もっと下品な話


「坂本さんも、そーいうの読んだりするんスかねぇ?」
俺の眺めていた雑誌を指差し、誰かが言った。
「あ? …どーいうコトだよ」
「いやぁ…なんつーか、あんまキョーミなさそーじゃないッスか」
そいつは勢い余って「葛西さんと違って、」まで零し、俺の視線に気付くと慌てて口を押さえた。
「俺がなんだって?」
「えっ、だって葛西さんいっつもグラビア雑誌みたいの見てんじゃないっスか」
言われれば確かにそうかもしれない、と手元の雑誌に視線を落とす。
別に水着のオンナが見たい訳じゃなく、誰かの本を適当に借りているだけだ。買ったヤツはグラビアが目的なのかもしんねーけど、俺は授業をサボる暇つぶしになったらなんでもいい。
「…ッ」
俺が立ち上がると目の前の男はびくりと身体を小さくした。殴られるとでも思ったんだろうか。
「やるよ」
ばさりと持っていた本を落として、俺はその場から立ち去る。そういえば、坂本のハナシは聞かねーな、なんて考えながら歩いた。周りの奴らはやれエロ本だAVだとあちこちでやりとりをしていて、「葛西さん!コレすげーんスよ!」なんて回してくれたりする。でもそういうもんが坂本の手に渡っているのを見たことがない。そういえば、先日借りたビデオテープが家にあったなと思い出し、返す時にでも聞いてみようと思った。

*****

「葛西さんもう見たんスか!?」
すごかったッスよねぇ、と目を輝かせて同意を求めるから、適当に返事をしておいた。
そんなことより、とそいつにテープを渡しながら問い掛ける。
「そういやあよー、坂本には貸さねーの?」
「えっ…坂本さん…?」
俺は貸したことないっスねー、と苦笑しているから「なんでだよ」とさらに問いを重ねれば、困ったような顔で「だってなんか、興味なさそーだし…そんなことより勉強しろって怒られそうじゃないスか」と返された。
「興味ないっつーこたぁねーだろ」
「じゃあ葛西さん、なんか知ってんスか?」
「なんかってなんだよ」
「たとえばほら、坂本さんは巨乳が好きー、とか」
そう問われて言葉に詰まる。そういえば坂本とはそんな話したことねーな、と溜息を吐けば、「ほらやっぱり!」と勝ち誇ったように言われてしまった。
いや興味ねーっつーことはないだろ。

*****

「…なぁ坂本」
「ん? なんだよ葛西」
坂本の部屋に遊びに行った俺は、思わず部屋の中をぐるりと観察する。
エロ本の一冊くらい隠れてんだろうなと思うけれど、見渡す限りでそれらしいところはない。
綺麗に片付いた部屋は、本当に男子高生のものなのか危ういほどに物が少なく、きれいに整頓されている。
「お前もさぁ…すんの」
「ん? …するって何を」
きょとんとした顔で問う坂本は、俺が何を言いたいかまったくわかっていない様子だった。
ハッキリ聞いちまえばいいんだろうけれど、この小奇麗な空間にそんな猥雑な単語を発するのはなんだか申し訳ないような気がして、上手く言えない。
「何っつったらナニだよ。」
「だからなんだって。」
わかんねーよ、なんていいながらなんにも知りません、みたいな顔で笑う坂本は、本当に俺たちと同じ人間なんだろうか。
「わかんねーのかよ!ナニだよ!ティッシュタイム!」
「あー…って、急になに言い出すんだよ葛西!」
合点がいった、みたいな顔で頷いた坂本は、すぐに真っ赤になって俺に食ってかかった。
「いや、みんなが『坂本さんはそーいうことしなそう』って言うからよー」
「なんだよそれ…」
坂本は頬を赤く染めて俯きがちに、「しないわけねーだろ」と小さく呟いた。
そりゃそうだよな、となんだか安心する。こいつだって、フツーの男だ。
「…どーやってすんだよ」
「は!?バカじゃないのか葛西!」
どうやってじゃねーよ!どうもなにもするこた一つだろーが!と捲し立てられて、今度は俺がぽかんとする。
何をオカズに、とかそういう意味で聞いたつもりだけれど、坂本の反応を見るに、どんな風に触るのかとかそういう話に取ったらしい。
いやでも言われてみれば、ほかのヤツがどんな風にするのかなんて知らねーな、と思った。いや別に知りたくはねーけど、でも別に自分のやり方だって誰かに習ったわけじゃないから、もしかして坂本とは違うかもしれない、なんて思ったらちょっとだけ興味が沸いた。
普段飄々としているコイツが赤くなるのがおもしれーってのもある。
「んだよ、別に今更恥ずかしがるような仲でもねーだろ」
「いやおかしーだろその理屈。温泉入るのとはワケがちがうんだぞ!?」
こんなに慌てたり声を荒げたりする坂本はみたことがない。別に減るモンでもないしいーだろ、とそのまま床に組み敷いた。
やめろよ、なんて抵抗されると余計に止めたくなくなってしまうのは、もう本能ってヤツなのかもしれない。
「……マジかよ葛西…」
「おうマジだぜ」
冗談で拳を交わす時みたいなノリでズボンに手を突っ込んで、まだ柔らかい坂本のモノを握り込む。
触れた瞬間、息を呑む音が耳元で響く。
「…ちょ、ホントやめろって葛西」
勃つわけねーだろ、なんて言われたら、勃たせてみたくなる。他人のチンコなんて初めて触ったけど、なんつーか、自分のとは違うからすげー妙な感じ。普段自分がするみたいに、と思ったけれど、自分のモンじゃないから当然触られている感なんてないし、向かい合わせだと普段と掴む向きが逆だから、イマイチ力加減がわからない。とりあえず掴んだまま上下に扱いてみる。
「っ、…ちょ、待ッ…」
「いや待たねーよ」
手の中の坂本が僅かに芯を持ち始めたのを感じて、握る手に力を込めた。
「待て待て待て!いてーよ葛西!!!潰れちまうって!」
坂本は必死に俺の手を剥がそうともがいている。握る手を離して「悪ィ、」と言えば「馬鹿力め。お前普段こんな強く握ってんのかよ」と返された。
「いやフツーだけどよー、自分のじゃねーと加減がわかんねーっつーか。」
「お前大丈夫かよ。女子死ぬぞ」
呆れたように溜息を吐かれて腹が立つ。「じゃあてめーはどうなんだよ」と言えば「試してみるか?」なんて挑戦的に微笑まれた。
「できるもんならやってみろよ!」
「あぁやってやろうじゃないか!脱げ葛西!」
売り言葉に買い言葉でまさか脱ぐ羽目になるとは思わなかった。けどここで引いたら負けたみたいで悔しい。勢い良く衣服を脱ぎ去り、せめてもの反撃に「てめーも脱げよ」と坂本の服に手を掛ける。
「お前はさっきしただろ。今度は俺の番」
他人の指で握り込まれて思わず身体が跳ねた。坂本の指先は様子を伺うかのようにそっと蠢き、くすぐったさに思わず吐息が漏れる。
「…ッ、う…」
「どうした葛西、息が上がってんぞ」
「…っるせー…」
やわやわと撫でられているだけなのに、どんどん熱が籠っていく。手の中であっさりと形を変えていくのを見て、坂本は興味深いとでも言いたげに視線を送った。
「…なんつーか、立派だな…」
「…ッ、バカなこと言ってんじゃねーぞ…」
なんだよ褒めてやってんのに、なんて笑いながらも、坂本の指先は柔らかく俺に絡みつく。
「…ぅあッ…、んっく…」
聞いたこともないような声が勝手に出て、慌てて唇を噛み締めた。坂本もびっくりしたようで、触れていた手を止め、俺を見詰める。正直めちゃくちゃ恥ずかしくて、思わず視線を逸らした。
「…葛西…」
空いた手で顎を掴まれて、そのまま口付けられた。マジかよふざけんな、なんて言葉は、隙間から侵入してきた坂本の舌に絡め取られた。口の中を掻き回されてぞわぞわと背中が粟立つ。
「てめ、何す…ッんだよ…」
顎を掴まれて引き寄せられたらもう不可抗力とは言えない。何を思ってコイツはこんなこと、と睨みつければ「…てめーがエロいんだよ」と返された。
「んだよエロいって!…殺す…っあ、」
決して力を込めて握っているわけじゃないのに、坂本の手が動くたび、甘い痺れが広がって吐息が漏れる。
「ほら、エロいじゃねーか」
「…ックソ…っ!」
声が出ないように唇を塞ぎたかったのと、さっき坂本にいいようにされたのが悔しくて、俺は目の前の唇に噛み付いた。
「…ッふ、…っ、」
坂本の手が先端を包み込み、手のひらでくるりと擦られる。合わせた唇のせいで鼻にかかったような甘い響きが漏れ、腰にきゅうと力が篭る。何度かそうされると、坂本の手のひらは俺の先走りでぬるぬるになった。
「…葛西、コレ…気持ちいーの?」
「ッ、うるせ…っ」
こんなおっ勃てながら睨んだって怖くねーよ、と笑って、鈴口に軽く爪を立てた。
「ぅあッ!…や、めっ…」
「さっきからすげーヒクヒクしてる」
耳元でそう囁かれて、一気に熱が集まる。俺の身体に力が篭るのをみた坂本は、握る手の力を強めた。
「ッう、あ、ッ、坂本ッ…!!」
勢い良く扱き立てられて、一気にてっぺんまで上り詰める。びくびくと腰を震わせ、普段一人でするときとは比べものにならないほど長く吐精した。

「…大丈夫かよ葛西…」
肩で息をする俺の背を、汚れていない方の手でそっと撫でながら、坂本は優しく囁きかけた。
「うるせー……ぜってー殺す…」
我に返ったら恥ずかしすぎて死にたい。むしろコイツをぶん殴って今までの記憶を消したい。
「…お前が始めたんだから仕方ねーだろ」
おら、これで拭けよ、と坂本はティッシュを何枚か引っこ抜いて汚れた手を拭うと、箱をこちらに寄越した。
「ちげーんだよ、坂本がどうやってるかっつー話だったのに、なんで俺が」
不満の声を上げると、坂本はなんだか複雑な表情で言った。
「俺がどうやってるか…身を持って分かっただろ、葛西」
「はぁ!?んなの気持ちよすぎてわかんねーよ!」
坂本が盛大に吹き出して、俺は自分の失言に気付く。
「くっそ…ぜってー仕返ししてやる…」
「握りつぶされんのはゴメンだな」
うるせーよバーカ!なんて拳を繰り出していたらすっかりいつも通りで、なんだか少しだけ安心した。

20170621