下品な話Rrevenge


あの一件からも坂本は至って普通だった。あれは夢だったんじゃないかと思うほど、何事もなかった顔で俺の名前を呼ぶ。

「なー葛西、今日ウチ来ねえ?」

久し振りにゲームしよーぜ、なんて呑気な笑顔を向けられて、ドギマギする俺の方がおかしいみたいじゃねーか。

「まだゲームなんかやってんのかよ」

「いいだろ、好きなんだから」

好き、の二文字にどきりとしてしまったのが悔しくて、「仕方ねーな、行ってやるよ」と力を込めて返した。坂本は、俺を家に呼ぶことに何とも思わないんだろうか。

*****

「はっはっは、相変わらず弱いなぁ葛西は」

「うるせー」

昔良く対戦したゲームは、今でもやっぱり坂本の方が上手くて、ハンデをもらっても全然勝てない。「もうやんねー」とコントローラをぶん投げて勝手にベッドに転がると、坂本は「お前昔から変わんねーな」と笑った。

「拗ねんなよ、」

ベッドサイドに寄ってきた坂本の手を勢い良く引く。倒れ込む坂本を難なく受け止めて、そのまま身体を反転させる。何が起こったのかわかってないらしく、簡単に組み敷いてしまって拍子抜けだ。

「…葛西?」

「やられっぱなしじゃ気がすまねーんだよ」

それだけで俺が何を言いたいかわかったんだろう。坂本は「悪趣味なヤツ」と大袈裟に溜息をつくと、「この間みたいなのはごめんだからな」なんて笑った。

「ったりめーだろ。俺を誰だと思ってんだよ」

普段は借りても適当に見たりみなかったりするようなAVを、初めてマトモに見た。まぁ女相手じゃあ別に参考になるようなモンはなくて(だってコイツ女じゃねーし)、「男が攻められるようなのねーの」と聞いたら痴女モノを渡された。「葛西さんそーいうの好きなんスか」と若干引いた顔をされたから「うるせーよベンキョーだよ」と殴っておいた。それがどうしてだか「葛西さんは歳上の恋人がいる」って噂になったけど、別に坂本のところまでは届かないだろうし関係ねー。

坂本の制服に手を掛けて、胸元をはだけさせていく。無言のままこんなちまちまと手元を動かすのは性に合わないけど、まさか制服を引きちぎるわけにもいかねーし。

「オイ葛西…」

「んだよ、」

コイツ綺麗な肌してんな、なんて思いながら、露わになった素肌をそっと撫でると、坂本は戸惑いの声を上げた。

「こんなことして楽しいのか?」

「うるせーよ」

嫌なら殴ってでも止めたらいーだろ、と言ったけれど、坂本は顔を背けただけだった。特に拒否の姿勢がないのは、普段から俺のワガママに慣れちまってるせいかもしれない。

「…なぁ、お前AVとか見たことあんの」

そういえば、と思って問いかければ、坂本はまさか今そんなことを聞かれるなんて思っていなかったらしく、目を丸くしてぷいと顔を背けた。

「…うっせーよ…いいだろそんなこと…」

「あれってよぉ、本当だと思うか?」

女が乳首舐められたくらいであんなに大声を出すのは演技じゃねーの、と思っていた。けどベンキョーのために借りた痴女モノでは男もあんあん喘いでたから、コイツだって大丈夫なんじゃねーか、なんて思って(何が大丈夫なのかは知らねーけど)、坂本の胸にかぶりついた。

「ちょ、バカ葛西ッ!」

急に身体を捩られて思わず歯を立てると、坂本は「痛ェよバカ!」と喚いた。んなこと言ったって急に暴れるお前が悪ィだろ。

「おめーが急に暴れるからだろーが。…別に怪我はしてねーし舐めときゃ治んだろ」

「…っあ、…ッ!?」

べろりと舐め上げると、坂本はやたら色っぽい声を上げ、慌てて両手で口元を覆った。

「…やっぱそーいうもんなのか」

「ッ、なに納得してんだよ…!」

ホントやめろ、と頭を押されて唇を離す。唾液に濡れる胸元はなんだか直視できなくて、思わずはだけたシャツを戻した。そのまま胸元から脇腹へ指先を撫で下し、ズボンのベルトを外しにかかる。

「ホン、ット、何考えてんだかわかんねーなお前」

呆れたような声を無視して、ズボンと下着を引き下げた。纏うもののなくなった下半身を指先でそっと撫でると、びくりと身体が震えた。

「…ッ、見んなよ恥ずかしい…」

「別に見てるわけじゃねーし、」

そうだ、別に見たいわけじゃない。借りたAVは美人家庭教師が教え子にイタズラするって話で、舐められたオトコが馬鹿みてーに喘いでいたから、この間の仕返しにやってやろうって、思っただけ。

「ちょ、葛さ、ッッ!」

画面の中じゃ「先生」だったけど、やっぱ反応は似たようなもんなんだな、なんて思いながら舌を這わせる。みるみる形を変える局部を目の当たりにすると、驚きを通り越して面白い。おんなじものは自分にもあるけど、自分のじゃあこんな至近距離じゃ見れねーから。

「おー、なんつーかスゲーなぁ」

「お前…ッ馬鹿かよ!」

坂本は上半身を起こし、信じられないみたいな顔で俺を見てた。いや俺だって信じらんねーけど、別に気持ち悪ィとかそういう感情はなくて、そりゃあ他の男なら気持ち悪いだろうけど、コイツは坂本だし。

「うるせーよ噛みちぎんぞ」

「…ぅあ、ッ…や、めろって…」

すっかり勃ち上がった先端を口に含むと、しょっぱいような苦いような不思議な味がした。けれどそんなことより坂本の反応の方が気になって、上目遣いにちらりと見る。

「葛西っ…」

名前を呼ばれただけなのに、カッと身体が熱くなる。お前なんつー顔してんだよ。
戸惑いが混ざる瞳は蕩けたように潤んで、赤い頬で困ったように眉を寄せる、初めて見る表情。そんなに気持ちいいもんなんだろうか、と唇の間で硬く張り詰める坂本自身を舌先で確かめる。坂本は噛み殺したようななんとも形容しがたい声を零し、また俺の名前を呼んだ。

「…俺にこんなことされて気持ちいいもんなのかよ」

「…るっせ、…や、めろって…」

やめねーよ、この間のお返しだ。そう言って目の前の昂りを咥え込む。ぐい、と唇を押し返す弾力を押さえつけるみたいに口元に力を込めた。

「…ぅあ、…んんッ…」

自分の喘ぎ声は死にたくなる程聞きたくないと思ったはずだし、AVだって随分うるせーな、くらいにしかおもわなかった。それなのに、坂本の声は別に平気だし、なんつーかすげーエロい。直接声が染み込んでくるみたいに、腰にクる。

「…葛西ッ、う、ぁ、ッッ!」

不意に髪を引っ掴まれて頭を押さえ込まれた。何だよ、と唇を離すよりも早く喉奥に熱い飛沫が叩きつけられる。突然のことに半ばパニックに陥りながらも、噛んだらマズいってことだけは覚えていたらしい。盛大に咽せ込みながら顔を離して、目の前の坂本を思いっきり睨みつけた。

「てめ、ッざけんな…!」

坂本は慌てた様子で身体を起こし、枕元のティッシュを引っ掴んだ。「だ、大丈夫か!?」と赤くなってんだか青くなってんだかわかんねーような表情で俺に近付く。
その顎を取っ捕まえて唇に噛みつき、口内のえぐい残滓を舌で押し込んだ。

「…ッ、なにす…んだよ!」

「そりゃあこっちのセリフだろーが!」

咽せ返ったもんだから鼻の奥まで痛い。ぐす、と鼻をすすりながら言えば、坂本は困ったような顔で「いやお前のせいだろ…」と溜息を吐いた。

「…ごめんな。ほら葛西…こっち向け」

涙やら鼻水やらを優しく拭われる。坂本は何度も「大丈夫か」とか「悪かったよ」とか繰り返していた。

「…俺のせいだっつーなら謝んなよ」

「…お前なぁ…」

呆れたような溜息を吐いて、坂本は俺の肩に額をくっつけた。そうして「なんだかわかんねーけど流石にやりすぎだろ…」と困ったように呟く。言われてみれば全くもってその通りだから、返す言葉もない。

「うるせーよ、いーだろ別に」

「いやいいことはねーだろ…」

まったくバカだな、と呆れ顔の坂本は、俺から離れると「とりあえず顔、洗ってこいよ」と言った。うるせーよ指図すんな、と返しつつ言われた通りに洗面台に向かう。

顔を洗って戻ってくると、坂本はすっかり衣服を正して、普段通りの涼しい顔をしていた。

「…大丈夫か?」

「おう。」

タバコに火を点けて、未だ残る不快感を煙で拭う。坂本に「吸うか?」と聞けば黙って俺からタバコを受け取った。

「…なんの練習だよ。」

「あ?練習?」

急にわけわかんねー単語が聞こえて、そのまま鸚鵡返しする。坂本は困った顔で言葉を続けた。

「…西島が、葛西に年上の彼女ができたって…」

「んなもんいねーよ」

オトコが攻められるAV貸せっつったら、痴女モノ渡された上に勝手にそんな話になってた、と説明してやった。恥ずかしいけど事実だから仕方ない。坂本は俺の話を聞くとどうして、とでも言いたげな顔でこちらを見た。

「あ?だっておめー女じゃねーだろ。」

「は?なんだよそれ」

二人してワケがわからないみたいな顔で視線を絡ませる。口火を切ったのは坂本だった。

「彼女が出来たから俺で練習したんじゃねーの」

「いや意味わかんねー。出来てねーし、できたとしてなんでおめーで練習すんだよ」

こないだの仕返しだよ、と坂本の顔に向かって思いっきり煙を吹きかければ、坂本は大袈裟に眉を顰め、「なにすんだよ」と笑った。

「お前バカかよ。仕返しったって程度っつーもんがあんだろ」

「うっせーよ人の顔面にブッかけといてよくそんな口叩けんな」

「うるせーよバカ葛西。」

坂本は頬を赤く染めて、さっき俺がしたみたいにタバコの煙を吹きかけた。

20170626