君の願いは


「かーさい、お前なんか願い事したの?」

「あ?何がだよ」

坂本が突然わけのわかんねーことを言い出した。あちーからおかしくでもなったのかと怪訝な視線を向ければ、「今日は七夕だろ?」とガキみてーな顔で返された。

「うるせーな、しねーし。」

「しねーの?駅前にでっけー笹あったじゃん、自由に短冊書いていいらしーぜ。」

そんなものあったって書くことねーよ、と溜息と共に零せば、坂本は驚いたように目を丸くしてぱちくりと瞬きなんかしながら俺を見た。

「意外だな、葛西のことだから色々あんのかと思った。」

「なんだよそれ。」

別にねーよ、あっても短冊書いてどーにかなるもんじゃねーし。そう続けると坂本は寂しげな顔で俺を見て、困ったように笑った。
ガキじゃあるまいし、叶いっこない願いをわざわざ人目にさらす意味がわかんねー。そりゃあ真剣に願ったことだってあるけれど、そんなもんは誰の目にも留まらずに枯れ果てた笹と一緒に捨てられて終わりだから。
不機嫌そうに坂本を見れば、何か考えるように瞳を伏せて、それから俺を窺うような視線を送る。

「なんかねーの。…例えば、俺が叶えられそうなこととか。」

「あ?…そんなんわざわざ書かねーでテメェに言やぁいいだけの話だろ」

フン、と鼻を鳴らせば、「じゃあ今言えよ!」なんて嬉しそうにさえ聞こえる声が返ってきた。意味がわかんねー。俺の願い事なんて聞いてどーすんだっつの。

「あー…っつってもいざそう言われると何もねーなぁ…」

とりあえず、一緒に帰ろーぜ、と言えば坂本は「お安い御用だ」なんてニコニコと笑っている。
いや別にそんなん願い事じゃねーし、と隣を歩く肩をどつけば、じゃあなんだよ、アイスでも買ってやろうか?なんて。ガキじゃねーんだよ。

20170707