暇な時は、ある人に会いに行く。それが市丸ギンの習慣になっていた。


「なんや由里果、また君温室から出とらんの」


そう声を掛ければ、黒い着物の女が振り向く。
赤い瞳に、黒い髪、白い肌。
何より目立つのはその睫毛で、瞳とお揃いの赤だ。
くるん、とカールしたそれは、さながら彼女の足元の彼岸花とそっくりだった。


「休憩したらどうなん? 根詰め過ぎはよくないで」
「交代要員が来ないの……」


彼岸花に水撒きをしながら、彼女は呟く。
以前のギンなら無理にでも連れ出していただろうが、
彼女の仕事への情熱を知った今では、そんなことはできない。


「難儀やなぁ、地獄蝶の管理長も」
「うん……」


真っ黒な髪に、地獄蝶が止まる。
その情景を美しいと思い始めたのはいつからか。

「……難儀やなぁ」

訳のわからない、この感情も。



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