ぬけだせない

自分の恋心は気持ち悪いんじゃないか、と考えながら迎えたローさんとの食事の日。
そうは言っていても単純に嬉しい気持ちで舞い上がってしまう。

待ち合わせ場所に向かうと既にローさんは立っていて。シンプルな黒いシャツにパンツスタイル。少し踵のあるブーツを履いているのがとんでもなくかっこよくて。顔が真っ赤になるのを走った所為だと誤魔化す。

そんな私にローさんは綺麗だと言ってくれた。
私は自分の気持ちをいつも偽って、傷付くのが怖いと臆病になってる。
誤魔化しているのが苦しいぐらいローさんに堕ちてしまったのに。



ローさんとの食事はカジュアルなイタリアンのお店だった。ちゃんとオシャレしてきて良かった。

「食べられないものはあるか?」
「ないです!」
「ふ、偉いな」

優しく微笑まれ頭をふわりと撫でられる。繊細な手つき。きっと髪型が崩れないように気を遣ってくれたんだと思う。

「そ、そんな子どもじゃないです…」

やっぱり子どもって思われてるのかしら。確かに私はついこの間成人したばかりでお酒もそんなに飲めないけど…

「悪い…そういうつもりじゃなかった」

ローさんの声は思ったより申し訳なさそう。ハッと顔を上げるとポーカーフェイスな顔も声色と同じ表情だった。

「いえ、その、」

ちゃんと思った事を言いたい。ローさんにだけは。傷ついても、言おうと決めた。少しずつでも。

「私は成人したばかりであんまりお酒も飲めないので…もっとローさんと歳が近かったらなぁと、思いました」
「!」

うぐ、言ってみたけど自分でも思うぐらい面倒な事を言ってしまったんじゃないか。年齢なんてどうしようもないのに、

「ミヤビはミヤビのままで良い。自信を持て」

嗚呼、この人は、本当に、

「ろ、ろろっ、ローさん!」
「すごいどもってるじゃねェか。どうした?」

すぅ、と息を吸い込む。

「ローさん、私、好きなんです!ローさんのこと!」
「は、」
「この間のが初めて会ったっていうのは…う、嘘なんです!本当は!もっと前に、ローさん見たこと、あって!」
「ミヤビ、」
「でも1度しか見たことないし、こんなこと言ったら気持ち悪く思われるかなって思ったんですが、」
「ミヤビ」
「1回見かけた時からもう好きになっちゃったんです!」
「ミヤビ!」

ローさんの声にハッとする。

「ご、ごめんなさい、私ったら、」

やっぱ気持ちなんて言うもんじゃない。そう思ってたら、

「おれも」
「はい?」
「おれもミヤビにハンカチを渡したあの日、一目惚れだったんだ」
「え、」
「好きだ、ミヤビ」

周りの雑音が遠くなって、私達2人しかこの世界に居ないみたいだ。

「気持ち悪くないですか…?」
「ん?」
「ローさんの、知らない間に見られて、勝手に好きになってたんですよ?」
「ミヤビは逆の立場だったら気持ち悪いか?」
「そんなことないです!」
「そういう事だ」

そう言って優しく微笑んだ。
気付かない間にお店の人にも会話を聞かれていたみたいでお祝いにとデザートを後からサービスしてくれた。
私もローさんも恥ずかしかったけど、2人で顔を見合わせて何故か笑ってしまった。



帰り道。お互い翌日仕事と学校があった為、夕暮れには解散という話になっていた。
少し帰りたくないと思いつつも、初めてのお出かけだったのでこれで良かったのかもしれない。

「ミヤビ」

別れ際、ローさんが私の名前を呼んで、

「今日は楽しかった。また連絡する」

そう言って優しく口付けられた。

「私も、です。大好きです、ローさん…」
「ふ…じゃあな」

耳元で、おれも大好きだ、と言って彼は去って行った。
痛いぐらい心臓がきゅうぅ、とときめいて、これが本当に好きな人と恋人になることなんだ、とハタチながらに思った。



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某アーティストさんの某曲シリーズ、一旦完結です。
もしかしたら後日譚もあるかもしれません。

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