だまされてほしい
初めてローさんを見た時、あの人だ、と思った。
あの人だ、って思ったって事は、本当は初めてじゃなかったんだけど、面識はそれまでなかった。
高校生の時に、たった1度だけ見たことがあった。
その日は大雪だった。道路を挟んで反対側に居たから本当は雪で見えるはずが無かったのに。
背が高く、すごく顔が整ってるけど目付きは悪い。脚がとても長い、とんでもないくらいスタイルのいい人だった。
その1度だけ。でも、強烈に頭に残って離れなくて、同級生も先輩も後輩も目に入らなくなって、そのまま大学生になってしまった。
今まで恋といえるものもした事ない私だったけど、紛れもなく一目惚れをしたんだと思う。
そして、桜が舞う頃。
もう逢えないと思っていたその人と私は再会した。
「なぁ、あんた」
声を掛けられ、振り向いた先にその人は居た。どうやらハンカチを落としてしまってたらしい。
普段ならそのドジに肩を落とす所だけど、今回ばかりは自分のドジに感謝してしまう。
“ロー”
確かに彼はそう名乗った。名刺にも“トラファルガー・ロー”と印刷されている。
「ローさん…」
勢いのまま連絡先を聞いてしまったけど、良かったのだろうか。家で悶々と考える。あの時だけで終わらせたくなかった、どうしても繋がりが欲しかった。
「ずっと好きでした、なんて、」
気持ち悪い。
ローさんはきっと初めて出逢ったと思ってる。そのまま続ければ良いんだ、それが良いんだきっと。
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