女神との出会い

「えーと……そして……えっと、なんて読むんだろ、この字……」



千尋さんの事件もカタがつき、真宵ちゃんが居ることにも慣れて来た頃の昼下がり。
ぼくは、巻物(?)を必死に読んでいる真宵ちゃんの声をBGMに、事務所で書類仕事をしていた。



「……ねえなるほどくん、この漢字ってなんて読むの?」
「ん?…ああ、讒訴(ざんそ)ね。他人を陥れるためのウソの訴えとか…陰口とかの意味だよ。……というかそれ、なんの巻物?」
「えっとねー、伝説みたいなものかな。」
「……伝説?」
「私の家、つまり綾里家に伝わる、女神さまの話。……ほら、これ見て!」




真宵ちゃんに見せてもらった巻物には、一つの伝説が書かれていた。
(達筆すぎて、逆にもの凄く読みづらかったけど……)



まあ簡単に言うと……

真宵ちゃんの先祖が、困っていた女性を助けたらその女性はとある幸福の女神で、
自分を助けてくれたお礼に、その先祖の願いを叶えた。

そして……その女神のおかげで、綾里家の女は代々強い霊力を持って生まれるようになった。

その女神様は先祖を気に入って、その先祖の住む里に住み着いた。
女神様が居ることで里は広く大きくなり、里の民は幸せに暮らしていた。

しかし、ある日里に女神様の噂を聞きつけた悪人が入り込み、
女神様を攫って行ってしまった……というもの。

……巻物に書かれていた物語は、そこで終わっていた。



「……この話、続きは?」
「ないよ。」
「えっ?」
「この女神様は悪人に連れ去られたまま、今でも見つかってないらしいんだ。」


「……まあ、あくまで伝説だからね。」


そう言うと、真宵ちゃんは巻物をくるくると巻いて片付けた。


「なるほどくん、そろそろ私帰るね!」
「…ああ、また明日ね」



そう言うと、ぼくはまた書類仕事を再開した。










……その数分後、下から真宵ちゃんの叫び声が聞こえるまでは。





叫び声の数十秒後。


慌てた様子の真宵ちゃんが、
一人の女性を抱えて、事務所の中へと駆けこんで来た。



「……た、たた、大変だよなるほどくん!」
「ま、真宵ちゃん!?今の叫び声は……」
「それどころじゃないよ!…事務所の前で女の人が倒れてたの!!!」



真宵ちゃんの腕には、華奢な女性が抱かれていた。
女性はすっかりやつれていて顔色もあまり良くなく、行き倒れと言うのも納得できる。



とりあえず……彼女を事務所のソファーに寝かせ、様子を見ることにした。




「……なんだかこの人……真宵ちゃんに似てない?」
「あ、それ私も思った!よく見ればこの服、倉い……」


真宵ちゃんがそう言いかけた瞬間、彼女は身じろぎする。


「ん……」

「…あっ、目が覚めたのかな!?」


彼女はうっすらと目を開けると、今にも消えそうな声でこう呟いた。


「おな、か……すい…た……」
「お腹空いてるの!?」

「……待ってて!帰りの電車で食べようと思ってたスナック菓子が………あった!」



「ほ、ほら!あーんして、あーん!」


スナック菓子をつまんで口元に近づける真宵ちゃん。
彼女はは「 ち が う 」と小さくつぶやいて数回首を振ると、
がばっと音がつきそうなほど勢いよく、真宵ちゃんを抱きしめた。


「「!?」」

「……生き……返…る……」


抱き付きながら何とも幸せそうな顔をする彼女。
真宵ちゃんもつられて、とても幸せそうな顔をしていた。


「ああ、なんか落ち着く……まるで、お姉ちゃんに抱っこされてる気分……」



暫くそうしていると、彼女は真宵ちゃんを抱きしめていた腕をほどいた。




「急に、抱きしめてごめんなさい……何十年も、心を食べていなかったものだから……」




真宵ちゃんを抱きしめたおかげなのか、それとも「真宵ちゃんの心を食べた」おかげなのか、
さっきのやつれた様子とはうってかわり、少し元気が戻ったような彼女の頬には、薄く赤みが差していた。

にこっと柔らかい笑みを浮かべる彼女に見惚れていると、
ぼくの視線に気づいた彼女はぼくの方を見て、ぽつりとこう言った。




「貴方たちが…私を助けてくれたの……?」



「え、えっと……そう、なるのかな……」
「……ねえ、あなたの名前は?」


真宵ちゃんの問いかけに、彼女は少し間をあけてこう答えた。



「……私は、桜花。」

「桜花ちゃんかあ、よろしくね!」

「よ、よろしく……」




……ぼくは、とりあえず彼女に……桜花さんに、どうして行き倒れていたのか話を聞くことにした。






「あの、ところで……桜花さん、でしたっけ?」

「どうして事務所の前で行き倒れていたのか、よかったら教えていただけませんか……?」





桜花は成歩堂に少し警戒しながらも、ゆっくりといきさつを話し出した。






「……それで、私は行き倒れて……彼女に助けてもらった、というわけなの……」



「つ、つまり、あなたは…」

「倉院のさ、里の……」



「……ええ、そうよ……人間の言葉では「女神」と言うんだったかしら?」

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