……それは、少し昔の話。
IGOの第一ビオトープ内、グルメ研究所の特別飼育室。
幼少期の芙蓉は、ここで過ごしていた。
その中でひときわ異彩を放つその飼育室は、
2階建てビルほどの高さがあり、ちょっとしたドームほどの広さを持つ特別製のオリが備え付けられており、
そこには大きく美しい九本の尾をもつ金色毛並みの狐が、ひと時のうたた寝を
何よりも愛しい娘の芙蓉と妲己と共に楽しんでいた。
ーーーそれは……まだ幼かった芙蓉が、
母親である“玉藻の前”の尻尾の上でうたた寝をしていた、とある日の事。
「……おまえ、誰だ?」
聞きなれない声で、芙蓉は目を覚ました。
そしてそのまま狐の耳をひくりと動かし、芙蓉はその声の主を探す。
「……ふぁあ……どぉこぉ……?」
「どこ見てんだよ、こっちだ」
芙蓉が寝ぼけ眼をこすりながら声のする方角を見てみると、
そこには青い髪をした少年が一人立っていた。
その気配にうたた寝していた玉藻の前と妲己も目を覚ましてしまい、
二匹とも少年を見るなり、勢いよく体を震わせて威嚇した。
その恐ろしさからか少年は尻もちをついてしまい、
玉藻の前は「敵ならば咬みついてやろう」と言わんばかりに、そのまま首をもたげる。
「あっ……お母さん、お姉ちゃん、おどろかせちゃだめ!!」
驚いた芙蓉の静止により、玉藻の前は威嚇をやめ、
少年から顔を背けて、もう一度うたた寝する体制に入る。
妲己も威嚇をやめたが、なぜ静止されたのかわからずに首をかしげていた。
「……そこでまってて!いま、いくからっ」
いまだ尻もちをつく少年。
それを見た芙蓉は慌てて尻尾から飛び降り、少年に駆け寄った。
「ねぇ、きみ……大丈夫?」
「……あ、あぁ、なんてこと、ねぇ……」
芙蓉は少年に手を差し伸べ、少年はその手を掴んで起き上がる。
「きみ、見たことないひとだねぇ……なまえは?」
「……トリコ」
「トリコ」と名乗った少年は、そう言うと照れ臭そうに頬を掻いた。
「……トリコっていうんだね!私は芙蓉っていうの!」
「芙蓉か、よろしくな……ところでお前、あんなおっかない狐といつも一緒にいるのか?」
「?……そうだよぉ、だって芙蓉のお母さんだもん。」
「は!?お前、あの狐がおふくろなのか!?」
「うん、だから九本のしっぽも耳もあるでしょ?」
そういうと、芙蓉は自慢げに耳と尻尾を揺らして見せた。
「わたし、お姉ちゃんもいるんだよ!……ねっ、妲己お姉ちゃん!」
芙蓉のその言葉に反応したのか、
妲己は玉藻の前の尻尾から飛び降りて、芙蓉とトリコの前に立つ。
「きゅーん!」
「うぉっ!でけぇ!?」
……一応補足しておくと、妲己は芙蓉と同じくまだ幼い子供。
ナインテールフォックスの中ではまだまだ小さい子ぎつねではあるのだが、
それでも、その体は「超大型犬」と呼ばれるニューファンドランドほどのサイズがある。
……もし妲己が本気で咬みつけば、子供であるトリコは無事では済まないだろう。
「ぜったい咬みついちゃだめだよ、お姉ちゃん」
「きゅぅん」
芙蓉がそう窘めると、妲己は「わかった」と言わんばかりに鳴き、
片方の前足で口を塞ぐしぐさをした。
「そういえば……トリコは、ここに何しにきたの?」
「探検してたら迷ったんだよ。ここには初めて来たけどな」
「ふーん、そっかぁ……ねぇトリコ、せっかくだから遊んでよ!」
「わたしはこのへんの道全部しってるから、遊んでくれたら、私がトリコを外まで送ってあげる!」
「……おう、いいぜ!」
……それが、芙蓉とトリコの出会い。
- 4 -
前小説TOP次
ページ:
ALICE+