「……ごちそうさまです、トリコ様」
特別飼育室前で二人を出迎えたのは、黒髪で細身の男性だった。
「カフェイン!久しぶりだな!」
「はい……5年ぶり、といったところでしょうか?すでにご用件は、所長よりお伺いしております。」
「芙蓉は?」
「……芙蓉様は“玉藻の前”様と一緒にお昼寝中です。そろそろ起きる時間だとは思いますが」
「そうか……とりあえず、中に入れてくれ」
「分かりました。飼育室のロックを解除いたしますのでどうぞ中へ」
そう促され、特別飼育室のドアの前に三人は立つ。
何十メートルもあるであろう特殊なドアには何百個あるのかわからないほど大量の鍵が掛けられていた。
「それでは……少々お待ちください。」
「おい、こっちは飼育室の“表口”だろ?いつも使ってる“裏口”はどーしたんだ」
「先ほどの騒動で、裏口の鍵のシステムが1部遮断されてしまってまして……こちらは別ルートで管理しておりますので無事なんです」
そう言いながら、淡々と鍵を外していくカフェイン。
その間に、小松はトリコにこう声をかけた。
「と、トリコさん!“玉藻の前”って、あのおとぎ話の?人に化けて国を滅ぼしたっていう……」
「ああ……“金色の毛並みに九本の尾、その体は山ほどあり、口はまるで池のように広く、その口から全てを焼き尽くす炎を吐く”と言われてる伝説の狐だ。」
「……まぁ、その伝説は誇張されすぎてるがな。玉藻の前の体がデカいのは事実だが。」
「そ、そんな狐が本当に……!?」
「見りゃあわかるって……そうだ、小松」
「はい?」
「“玉藻の前”には、失礼のないようにしておけよ。あいつはそういうのを酷く嫌うからな……かくいう俺もガキの頃、あいつに何度も躾けられたもんだが……」
「ひ、ひぃっ……!!」
「まぁ心配は要らねぇよ。あいつに見つめられたらじっと見返さずに、ゆっくりパチパチと瞬きするんだ。」
「瞬き?」
「これは狐に限った話じゃないが、動物にとって相手をじっと見つめるのは「捕食してやる」とか「俺はお前を警戒してる」って意思表示になる」
「だからゆっくり瞬きして視線をブレさせることによって、「敵意はない」ということを相手に伝えることが出来るんだ。これは1部の動物のみならず、なんと人間にも応用できるぞ(実話)」
「へぇ、人間にも……」
「芙蓉にも試してみたらどうだ?あいつ、ひどく機嫌が悪いと引っ掻くことがあるしな!」
「え゛えっ!?」
そう怯える小松をよそに、カフェインは特別飼育室の最後のカギを開ける。
「……では、くれぐれも玉藻の前様に失礼のないようお願いいたします」
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