·····チタニアは、よく踊る。


幼い頃からチタニアは、ローザアイテラの舞踏である「プロセフヒ」と呼ばれる踊りを好んで、よく踊っていた。

チタニアは好きが高じて闘いに応用するほどその踊りが好きで、プロセフヒの踊り自体が足の装甲が出るブラックトリガー『女神の牝鹿(ゴッデスディア)』との相性がよく、踊るように敵を倒す様は美しいと言わざるを得ない。

近界ではよく訓練の合間に、誰もいないところで踊っていた。
·····もう無くなった祖国を思ってか、それとももう居ない祖母や母を思ってか。
たまに泣きながら、踊っていた。


·····それを見られるのは、オレだけの特権だった。


それは玄界に来てからも一緒で、
今も、よく玉狛の訓練室や屋上で1人で踊っている。

そこに、オレも居るのは変わらない。



「·····はは、ヒュースにそんなに見られると恥ずかしいな。ワタシの踊りなど見てもつまらないだろう?」


照れながらチタニアが言うと、ヒュースは首を振って否定する。


「オレは·····お前の踊りは嫌いじゃない」


そう言ったら、チタニアは目を丸くしたあと、ふっと笑った。


「ありがとう、ヒュース·····ローザアイテラが滅んだ今、もうプロセフヒを踊れるのはワタシしか居ないからね·····踊りを忘れたくないんだ」

「·····そうなのか」

「あぁ、でも聞いておくれよヒュース!玄界にもプロセフヒのような踊りがあると、アナスタシアが教えてくれたんだ!「ばれえ」というものらしいんだが、是非見てみたいものだね!」


嬉しそうに話すチタニアを見て、自然とヒュースの口角が上がる。
気づけば、こんな言葉がヒュースの口から飛び出した。


「·····オレは、そんなものよりお前の踊りの方がいい」

「!」


途端に真っ赤になるチタニアの顔。
ヒュースは思わず言ってしまったことに後悔したが、言ってしまったものは仕方がない。
すると、チタニアは頬を少し赤くしながらこう言った。


「そうだな·····今度プロセフヒを踊る時は、キミのことを考えよう。」


·····チタニアが何気なく言ったその言葉は、ローザアイテラでは最上級の愛の告白だ。

それを知らなければ、それはただの社交辞令に過ぎないだろう。

·····ただ、それを知っている者にとっては、その意味が変わる。


「·····それならオレは、オレの為に踊るお前だけを見つめていよう」


ヒュースはチタニアの言葉に対して、これまた最上級の愛の返答を口にした。


「ッ·····!なんでキミが、それを知って·····!?」

「以前、ヴィザ翁から聞いた事がある。·····ローザアイテラの『プロセフヒ』にはそういう意味もあると。オレはそれに倣ったまでだが?」


そう言うと、更に赤くなっていくチタニア。
その顔を隠すように、彼女は顔を背けた。


·····ヒュースの言う通り、プロセフヒはローザアイテラの伝統的な舞踏であるが、今となってはその舞踏の意味を知るものはいない。


何も知らない人間が見てもバレエのような美しい踊りにしか見えないが、本来プロセフヒはローザアイテラの言葉で「愛しい人に捧ぐ」ということを意味する。
·····つまりは、愛の告白やプロポーズの際に相手への愛を伝えるために舞われる舞踏なのだ。


「お前の母親も、1度だけヴィザ翁にプロセフヒを踊ったそうだな。その時に謂れを聞いたそうだ」

「う〜·····キミがこの謂れを知ってるのは、完全に想定外だったんだぁ!知らなかったら、ただの社交辞令だと思ってくれると思ったのに·····!!」


羞恥で悶えるチタニア。
ヒュースは、自分の言葉が彼女の想定外だったことを喜んでいる自分がいることに気づいていた。しかし、ヒュースはもう隠さない。

長い期間ヒュースのの胸で燃え、彼が気づいてからチタニアに伝え、想い合うまでずっと抑えてきた想いを、もう我慢することはなかった。


「チタニア、オレはお前を愛している。だからオレのために踊るお前の姿を見たいし·····オレだけを想って踊るお前が見たいんだ」

「·····〜っ!!ヒュース!頼むからそれ以上言わないでくれぇ·····!」


耳まで真っ赤にしたチタニアがそう言うが、ヒュースは止めなかった。


「嫌だ。オレがどれだけお前のことを好いているのか知ってもらうまでは止めるつもりはないぞ」

「ひ、ヒュース·····キミは玄界に来てからだいぶ意地悪になったな!?」

「お前がオレの気持ちに応えてくれるなら、そうでもないさ」


ヒュースはそう言ってチタニアの手を取り、そっと口付けた。


「·····オレはお前が好きだ、チタニア。もう2度と離す気は無い」


そう言うヒュースの目は、真剣そのものだった。


「·····仕方ないね、ワタシの負けだよヒュース。ワタシはもう、キミなしでは生きられないからね」


チタニアは降参するように両手を上げてそう言うと、訓練室の真ん中まで走り、赤い頬でこう言った。


「今度と言わず、今からキミを想って踊ろうじゃないか!覚悟してくれよ?」

「望むところだ」


ヒュースがそう返すと、チタニアは嬉しそうに微笑んで、プロセフヒを踊り始めた。

音楽はないが軽やかなステップや隊服の金具や衣擦れが音を立て、まるでそこにオーケストラがいるかのような錯覚に陥る。

·····美しく舞うその姿は、まさに王家の血筋。


そして、それを見つめるヒュースの目もまた、優しい色をしていた。


その後、なかなか戻ってこないチタニアとヒュースを心配した栞と力也が様子を見に来ると、そこにはヒュースの前で汗を流しながら楽しそうにプロセフヒを踊るチタニアがいた。


「わぁ·····チタニアちゃん、妖精みたい·····」

「あいつら、なかなか戻ってこねぇと思ったら·····おー·····もがっ!」

「わわわ、ダメだよリキちゃん!」


2人を呼ぼうとした力也の口を栞が塞ぐ。


「ぷはっ·····何すんだよ、栞!」

「邪魔しちゃダメだよ〜、チタニアちゃんとヒュースくん、今すっごい楽しそうなんだから」

「·····なんでだ?」

「ふふ·····チタニアちゃん、リキちゃんと付き合いだした頃の私みたいな顔してるんだもん。」


栞の言葉を聞いて、力也の顔がみるみると赤くなっていった。


「ヒュースくんは、私とデートしてる時のリキちゃんみたいな幸せそうな顔してる。」

「ばっ·····!」

「えへへ、図星?」

「う、うるせぇな·····」


栞に指摘されて照れる力也だったが、その目はとても優しかった。


「仲の良いおふたりの邪魔しないように、行こっかリキちゃん」

「あ?ああ·····そうだな」


そう言うと、2人は静かにその場を後にするのだった。

ちなみにこの後、チタニアは体力の限界を迎えて倒れてしまったのだが、それはまた別の話である。



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愛する人のために踊るっていうのを書きたかった!!!

20220309


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