「·····お前の残りの人生、おれにくれない?」


突然そんなことを迅に言われたアレクシアは、驚きのあまり目を丸くしたが、すぐに笑顔になって笑った。


「·····なぁにそれ、プロポーズ?ママのトリガーなしのアタシにすら模擬戦で1回も勝てたことがないアンタがアタシにプロポーズなんて、100年早いわよ!」

「ぐっ·····」


アレクシアの言葉に迅は黙り込む。
そんな彼を見て、彼女は楽しそうに笑ってこう言った。


「アンタまだ18でしょ?まだまだこの先長いじゃない·····こんな残りの命少ない年上の女なんか相手にしてないで、ボーダーの可愛い女の子捕まえなさいよ。そっちの方が楽しいわよー」


そう言うと、アレクシアは先程の表情とは打って変わって少し寂しそうな顔をする。


「·····アタシもボーダーで活動する以上、寿命まで生きてられるかわかんないし。いつ戦いで死ぬか分からないし、いつママみたいに黒トリガーになるか分かんないしね。まぁ、それはそれで仕方ないことだけどさ」


そう言って笑う彼女の顔には、諦めにも似た感情が見え隠れしているように思えた。
それほどまでに、アレクシアを蝕むトリオンキャンサーは根深く、彼女を侵食していたのだ。


「アタシもう22だからね、寿命の35歳までもうあと13年しかない。だから·····アンタの13年、無駄にする訳にはいかないよ。ちゃんとした人と付き合って、結婚して、幸せになりなって!そのためなら協力は惜しまないからさ!」

「··········」


迅は何も言わずにただ黙っているだけだった。
その様子に、アレクシアは苦笑いを浮かべる。


「·····アタシがいずれ死ぬのは、アンタのサイドエフェクトで分かるでしょ」


そう言われてもなお、彼は何も答えなかった。
·····そして、何かを決意したかのように口を開く。


「·····わかった」

「え?」

「·····約束する。お前が生きられる時間、全部俺にくれ。必ず幸せにしてみせる」


彼の真剣な眼差しにアレクシアは一瞬たじろぐが、すぐに表情を戻してこう言った。


「そうねぇ·····アンタがママのトリガーありのアタシに10本勝負で1回でも勝てたら、プロポーズされてやってもいいわよ?」

「·····え、マジで?」

「アンタがママのトリガーを使ってるアタシに勝てると思わないけどね。」

「うわ〜、ハードルたけぇ〜」


そう言いながら頭を掻く迅に、アレクシアはケラケラと笑う。


「·····まぁ、ハードルは高い方が超えがいがあるって言うだろ?」

「ふーん、まぁせいぜい頑張るのね。期待しないで待ってるわ」

「おれは実力派エリートだからな、待ってろよアレクシア」


そう言うと、迅は玉狛へと戻る。
その背中を見つめたあと、アレクシアはふっ、と笑う。


「·····諦めれば、いいのに」


誰に言うでもない言葉が、虚空へ消えていく。
彼女は小さくため息をつくと、ゆっくりと立ち上がる。


「·····ほんっと、バカね。こんな女好きになるなんて、こんな女と結婚したいなんて。」


そう呟いた彼女の瞳からは、一筋の涙が流れ落ちた。


「·····アタシなんかのために、人生棒に振ることないじゃない」


誰にも届かない声は、静かに夜闇へと溶けていった。




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