君が流したユメナミダ。


とある夢


みんながあんたを許しても

アタシはあんたを許さない


あんたとアタシに関わりがなくとも

あんたの先祖とアタシは関わりがある


あんたがアタシを知らなくても

アタシはあんたを忘れるなんてできやしない


みんながアタシを隠そうとしても

アタシはそれを突き破って出て行って


あんたの喉元に尖らせた爪の切っ先を突き付けて

あんたがこの世に生まれてきたこと自体を後悔させてやる




それが今のアタシに出来る復讐


それが今のアタシを突き動かす原動力







覚えてなさい、五和リータ





あんたがアタシを知らなくても

アタシはあんたを絶対に殺してやる



「・・・うわあっ!!」

草木も眠る、真夜中の午後3時。
大声を出して勢いよくベッドから飛び起きた少女―五和リータ。

リータは目を見開いたまま胸をぐっと抑え、
はあはあと荒い息を抑えようとした。

その声に目を覚ました幽霊―エーテル。

エーテルはふわりと漂い、リータの前に浮かんだ。

「大丈夫、リータ?うなされていたようだけど・・・」
「・・・う、うん、大丈夫だよ。怖い夢を見ただけ」
「怖い夢?」
「・・・私が、海に落ちる夢。苦しい訳じゃないのに上がれなくて、ただただ海へ沈んでいくだけの夢なの。」

リータは首をぶんぶんと振る。
まるで、さっきの夢を必死に忘れようとしているようだった。

「・・・ごめんねエーテル、起こしちゃって。こんなくだらない夢のせいで・・・」
「いえ、いいんですよ。そんな夢は今度、わすれん帽にでも食べてもらいましょう!」

そう言うと、エーテルはそっとリータの頬を撫でる。

「まだ、朝には早いですよ。今日は引っ越してきて最初の日ですから、緊張してそんな夢を見たんですよ」
「・・・そうなの、かな」
「ええ、ええ!そうに決まってます。もう一度寝れば、今度は夢を見る暇もないほどぐっすり眠れますよ」
「そっかあ・・・じゃあ、もう一度おやすみ・・・」

リータはエーテルに撫でられたまま、そのまま静かに目を閉じた。



「(・・・また、“あいつ”が出てきかけているのね・・・)」


「(まったく・・・なんて、うっとおしくて執念深い女なんでしょう!)」


「(・・・でも、他人事じゃないわ)」


「(時間がない、このままじゃ・・・)」













「(・・・リータが乗っ取られて殺されてしまうわ・・・)」




そして、次の朝。


「・・・ふわぁ・・・」
「おはよう、リータ。」
「ん、おはよ・・・」

起きたばかりで眠たい目をこすりながら、
リータは着替えをするためにベッドから降りる。

・・・しかし、
用意されていた着替えを見て、リータは顔をしかめた。

「お母さん、またゴスロリ服なんて用意して・・・」
「可愛いじゃないですか。リータの雰囲気にピッタリですよ。・・・嫌なんですか?」

なだめるようにエーテルが言うと、
リータは顔をしかめたままこう言った。

「・・・嫌いじゃないけど、好きでもない。」

「ただでさえ、私は金髪で青い目だから外国人と勘違いされて話しかけてもらえないのに・・・」
「ゴスロリ服着てるせいで、余計に不気味がられて近づいてもらえないの」

そう言うと、リータは持っていたワンピースをくしゃりと掴む。

「家じゃロリータ服なんか着せられて・・・」
「・・・」
「私は、他の女の子みたいな服が着たいのになあ・・・」

リータはそう言うと、パジャマを脱ぎ始めた。

「・・・まあ、文句言っても仕方がないよね。」
「お母さんは、お母さんがデザインした服を私が着ることが嬉しくて仕方ないんだよ。」
「リータ・・・」
「いつもはフリフリのだけど、今日は学校に行くから大人し目のにしてくれたしね!」

ニコッと笑いながら、リータはワンピースに袖を通す。

「(リータ・・・無理やり、笑ってる。)」

「友達が、出来たらいいな!」
「・・・そうですねぇ」


ぱちんぱちん、と留め金を留める音が響く。

その音を聞きながら、エーテルはリータに見えないよう、
後ろを向いて、悲しそうな顔をした。


「ねえ、エーテル」
「・・・あ、はい?」
「今度は・・・いじめられたりしないよね?」


リータは自分の手をきゅっと握り、不安そうな顔をする。
それを見たエーテルは、リータを抱きしめ、そっと頭をなでる。

「大丈夫ですよ。もしそんな事があったら、どんな手を使ってでも私が助けてあげますから」
「・・・ありがとう、エーテル」



リータ達がさくらニュータウンに引っ越してきた理由。





・・・それは、リータがいじめから逃げるためだった。



いじめの理由はわからない。
外国人のような風貌のせいかもしれないし、
いつも着ているゴスロリ服が、相手の気に食わなかったのかもしれない。

しかし・・・何故か、リータは小さい頃から一部の人間にひどく嫌われてきた。
会えばその「嫌悪」をたくさんぶつけられるのは日常茶飯事。

いつしか、リータはあまり人を信用しなくなり、
自分が赤ん坊のころからいつもそばに居てくれるエーテルだけを信用してきた。


・・・そして、倉庫から妖怪ウォッチを見つけたのもこのころ。
前の持ち主がした改造のせいで、最初はただの古ぼけた時計だと思っていたリータは、
エーテルのおかげでその価値に気付き、屋敷に住み着いていた妖怪を片っ端から友達にして、
メダルをもらっては一緒に遊んだり、話し相手になってもらったり。



ある時、リータは気づいた。




「人間は私を嫌うけど、妖怪は私を嫌わないんだ」

「・・・なら、人間の友達なんていらないよね。」




その日から、リータは妖怪メダルの入った袋を大事に持ち歩きはじめた。


そして、人とはあまり関わらなくなった。



この2年間のあいだに転校を数回繰り返し、
すっかりリータは疲れ切っていた。

エーテルや妖怪たちがいなければ、
リータは孤独のまま、行ってはならない方へ行ってしまっていたかもしれない。


「・・・リータ、起きる時間よ!」
「わかってるよ、お母さん」

ノックの音と、母親の大きな声。
それに気だるそうに返事をして、リータは脱いだパジャマを片付けた。







「・・・じゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい、リータ。」

ドアを開けると、からころとドアベルの心地いい音が鳴る。
しかし、その音さえも今のリータにとっては不安材料でしかなかった。



「そんなに気を落とさないで・・・きっと大丈夫ですから」
「ありがとう、エーテル。そう言ってくれるだけで落ち着くよ」

そう強がるものの、顔は不安でいっぱい。

「ねえ、リータ。」
「ん?」
「・・・楽しいことを考えてみて!そうしたらきっと、自然と笑顔を出せますよ」
「楽しい、こと・・・」

そう言われ、少し考え込むようなそぶりをした後、
リータは冷め切ったような顔でこう言った。


「楽しいことなんて・・・何もないよ。」
「・・・!」


エーテルは、それ以上何も言えなかった。

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