転校生
・・・ガララッ!
「ケータ、フミちゃん!」
教室の引き戸を少し乱暴に開け、急いで教室に入ってきた男の子―月山 勇気。
「ねぇ、今日このクラスに転校生が来るって知ってたかい!?」
勇気はぜえぜえと息を切らし、ケータの机近くで話していた、
ケータとフミちゃんに話しかけた。
「・・・えっ、勇気くんそれ本当!?」
「うん、職員室にプリントを取りに行った時、先生が話していたのを聞いちゃったんだよ!」
「どんな子が来るかわかる?」
「それもちょっとだけ聞いた。何でもハーフの女の子なんだって。」
「・・・はーふ?」
「外国人と日本人の子供ってことだよ。」
「それ本当かよ、ユウ!」
「転校生!?」
「うん、校長先生と先生が話してたから間違いないよ!」
零れ話を聞いていたクマやカンチも勇気に問いかける。
「女の子なぁ・・・ウチのお菓子食べてくれるやろか?」
「ちぃくん、また店に引っ張り込むつもり・・・?」
「うん、そうやけど?」
「・・・」
「女の子かぁ、可愛い子だといいね」
「分かんないよ?ボーイッシュな子かも。」
「ハーフだから、お人形さんみたいな子かも!」
「気になるよね!」
教室がわいわいとその話で持ち切りになっていると、時間を知らせるベルが鳴り響き、
全員、急いで自分の席に着いた。
・・・その頃。
「じゃあ五和さん、合図したら入ってきてね」
「わかりました。」
先生の言葉に従い、リータは教室の扉の前で大人しく待つ。
その間、スカートの裾がよれてないか確認したり、
髪につけているリボンが曲がっていないかチェックする。
それでも不安なのか、リータはエーテルにこそっと話しかけた。
「・・・エーテル、大丈夫かな?おかしくないよね?」
「大丈夫ですって。安心してくださいな!」
「うん、でもやっぱり不安で・・・」
「本当に大丈夫ですから!さっき私がこっそり見てきましたけど、優しそうな子ばかりでしたよ。」
「・・・ほんと?」
「はい!特にあの赤い服の男の子なんて、見た目は普通でしたけども優しそうで・・・」
そう言うと、エーテルは
扉のガラス越しにケータを指さす。
そして頬をぽっ、と染めてこう言いだした。
「特に・・・その傍に居るあの人です、あの妖怪がカッコよくて・・・紫色の唇が色っぽくて・・・!!」
「・・・待ってエーテル、今・・・妖怪って言った?」
「あ、言うの忘れてました。その赤い服の男の子が、妖怪ウォッチを付けてて」
「妖怪ウォッチって・・・私のと同じ型?」
「・・・いいえ、彼のは腕時計型でした。リータのは懐中時計型だから」
「私以外に、妖怪ウォッチを持ってて妖怪が見える子がいたなんて・・・」
リータも扉のガラスを少し覗き込み、
ケータとウィスパーを見た。
「ほんとだ・・・」
「でしょっ!?カッコいいでしょっ!?」
「・・・でも、エーテルの趣味・・・よくわかんないや」
「Σガーンっ!!」
「ひどい・・・」と落ち込むエーテルを背に、
リータはケータを見つめていた。
「(・・・何だろう、この変な気持ち・・・)」
「じゃあ五和さん、入ってきて」
先生の合図で、リータは我に返り、
扉を開けて教室に入る。
リータが教室に入ると、教室は少しざわついた。
そのざわつきに一瞬リータは怯えたが、
皆の表情を見て、すぐに安心した。
「(よかった・・・私を嫌う人はいないみたい)」
リータはホッ、と胸をなでおろす。
『嫌う人』は初対面でもリータを嫌悪を剥き出しにした嫌そうな顔で見るため、
楽しそうに笑うクラスのみんなに、心底安心したようだった。
「えっと・・・五和リータです。」
「一昨日、ここに引っ越してきました。・・・これからよろしくお願いします」
そう言うと少し笑い、丁寧にお辞儀する。
「(可愛い・・・)」
「(お人形さんみたい!)」
「(綺麗な目だなあ)」
「席はケータの隣・・・ケータ、手を上げてあげて」
「・・・あっ、はい!」
先生に言われ、ケータは手をしっかりと上げた。
そしてリータは歩き出し、ケータの隣の席に座る。
「初めまして。えーと・・・」
「あっ、俺・・・天野景太。みんなから「ケータ」って呼ばれてるんだ。これからよろしく」
「よろしくね、ケータくん」
薄く笑うリータに、
ケータは胸をぎゅっ、と締め付けられた。
そして休み時間。
チャイムが鳴ると同時に、みんなリータの元へ詰めかけた。
・・・その中にはフミちゃんも。
「私、木霊文花。みんなから「フミちゃん」って呼ばれてるの。よろしくね!」
「よろしくね、フミちゃん。」
「・・・ねぇ、リータちゃんの事を「リッちゃん」って呼んでもいいかな?」
「え・・・」
「あっ、嫌だったらごめんね。リータちゃんと仲良くしたくて」
「う、ううん、嫌じゃないよ!ありがとう、フミちゃん・・・」
「ありがとう!これからよろしくね、リッちゃん!」
そう言うと、二人は握手を交わした。
「それにしても可愛い女の子ですね、ケータ君!」
「えっ、あ、うん・・・」
「おや?もしかして・・・彼女に一目惚れしちゃったとかですかー?」
「なっ・・・!」
「図星でうぃすね」
「ち、違うよ!なんだかさっきから視線を感じて・・・これって絶対妖怪のしわざだよ!」
そう言うと、ケータはいつもと同じように
妖怪ウォッチを開き、妖怪を探し始めた。
「またまた〜、それはケータ君の『思い違い』ってヤツですよ!」
そう言うと、ウィスパーは笑い出す。
「見るだけなんてそんな妖怪いるはずがn「居た!」マジで!?」
「・・・あらあら、見つかってしまいました」
そこには、「しまった」と言いたげな顔をするエーテルの姿が。
「女の人の、妖怪・・・?」
「・・・妖怪と言うより、幽霊ですね」
「あー、あながち間違ってはいないですね。・・・まぁ私、元は人間ですし」
「それより、貴方は一体?この学校の地縛霊とかですか?」
ウィスパーがそう質問すると、エーテルは胸を張ってこう言った。
「よくぞ聞いてくれました!私はエーテル、リータの乳母兼執事みたいなものです!」
「えっ!?」
「・・・まあ、詳しい話は放課後にでも。」
そう言うと、エーテルはケータにずいと顔を近づける。
ぎらり、と赤い目が怪しく光り、
その目に、少し怯えたケータを映した。
「あとで分かることですから」
と、少し意味深な言葉を残して。
時間はゆっくりと確実に過ぎ、そして放課後。
朝のエーテルの言葉が気になったケータは、
思い切ってリータに声をかけた。
「・・・あのっ、リータちゃん!」
「ケータくん・・・?」
「あっ、あのさ・・・引っ越してきたばかりなら、ここの地理わかんないでしょ?だから・・・」
「・・・」
「よかったら、俺・・・このあたり案内するよ!」
少し赤い顔をして、そう言うとケータはニコッと笑う。
それを見て、リータは少し考え込むような顔をしたあと、
軽くうなずいてこう言った。
「・・・ありがとう。じゃあ、お願い・・・しちゃおっかな」
そう言うと、リータはほほ笑む。
その顔を見て、ケータは心の中でガッツポーズを決めた。
・・・そして。
駅や店などを教えてもらい、
「・・・へぇ、稲荷もあるんだね」というリータの言葉で、二人は桜稲荷にやってきていた。
「歩いて喉乾いたでしょ?はい、これ」
「あ、ありがとう・・・」
ケータは冷たい缶ジュースを差し出す。
それを少しおどおどした様子で受け取るリータ。
カシュ、カシュ、と缶を開ける音が2回、
静かな境内に響いた。
「・・・駅とか、大体わかったかな」
「うん。本当にありがとう・・・今日初めて会ったばかりなのに、ここまでしてもらっちゃって」
「・・・だ、大丈夫だよ!」
そう言うと、ケータは照れる。
リータはそれを見て、また薄く笑った。
「・・・ケータくんって・・・優しいんだね。」
リータは貰ったジュースを一口喉に通し、目を軽く伏せてそう言った。
「そ、そうかな?」
「そうだよ。」
そう言うと、二人は顔を見合わせる。
「(・・・ケータくんなら、きっと信じられる。)」
「(何故か、そんな気がする・・・)」
見つめあうその状況に耐えられなくなったケータは、
エーテルを見たことを言おうと、口を開いた。
「あの、リータちゃん・・・」
「リータっ!」
その時、小さい女の子のような
少し甲高い声が響いた。
「!?」
ケータがくるりと声がした方を見ると、
まるでジバニャンを水色にしたような猫が、嬉しそうな顔をして立っていた。
「ジバニャン・・・?」
「・・・何よ、つーか誰よあんた。私は『ミズニャン』なんだけど?」
そう言うと、「ミズニャン」はケータを軽く睨む。
ミズニャンと話すケータを見て、リータは驚いた顔をした。
「ケータくん・・・ミーちゃんが、見えるの?」
「・・・えっ、リータちゃんも?」
二人がそう話して驚いていると、
リータの肩からエーテルが顔を出し、ひょうきんな声でこう言った。
「・・・ほーらリータ、言ったとおりでしょ?」
「あっ、朝の・・・!」
「エーテルまで見えるの?やっぱりその腕時計も、妖怪ウォッチなんだね!?」
そう言うと、リータはウォッチのついてる方の手を、軽く両手で掴む。
そして、ケータの妖怪ウォッチをじっと見た。
「本当に妖怪ウォッチだ・・・。私以外にも妖怪ウォッチを持ってる子がいたんだ・・・!」
「・・・私以外にも?」
「うん。・・・実は私も、妖怪ウォッチを持ってるの。」
そう言うと、襟の下からちらりと見えていた皮ひもを引っ張る。
すると、懐中時計より少し大きめな時計が出てきた。
パッと見は普通の懐中時計だが、蓋を開けると、
中身はケータのウォッチとほぼ同じ構造になっていた。
「本当に、それも妖怪ウォッチですね」
「・・・わあっ!?」
急に近くに現れたウィスパーに、リータは吃驚する。
「ウィスパー!」
「・・・あなた、妖怪・・?」
「うぃっす!私はウィスパー、ケータ君の妖怪執事です」
「・・・妖怪執事・・・ね。なんだか素敵!」
「リータ、私を忘れちゃ嫌ですよー!」
「あはは、ごめんねエーテル。」
- 153 -
*前次#
ページ:
ALICE+