突然流れた涙
・・・ぽたっ
リータのスカートに水滴が落ち、
じわりと小さなシミを作る。
自分が泣いている、とリータが気づくまでに、
さほど時間はかからなかった。
「・・・リータちゃん!?」
「ごめ、なんか涙、でちゃって・・・」
リータは必死で涙を手で拭った。
「これ、使いなよ!」
そう言うと、ケータは水色のハンカチを差し出す。
「・・・ありがとう、本当にありがとう・・・」
そのハンカチで、少し遠慮がちに涙を拭くと、
リータはゆっくりと、何回もお礼を言った。
「あのさ、リータちゃん」
「?」
「もしも・・・もしも、俺にできることがあったら、何でも言ってよ!」
その言葉に、リータは目を見開く。
「・・・その、俺も・・・リータちゃんと仲良くしたいし・・・」
「リッちゃん・・・」
「えっ?」
「リッちゃんって、呼んで。」
リータははにかんでこう言った。
「・・・私も、ケータくんと仲良く、したいから・・・」
そう言うと、照れながらすっと手を差しだし、握手を求めた。
「じゃ、じゃあ・・・リッちゃん。これから・・・よろしくね」
「うん。こちらこそよろしくね、ケータくん」
そう言うと、二人は握手を交わし、
お互いの家の近くまで、一緒に色んな話をしながら歩いて帰った。
自分が友達になった妖怪の事や、どうやってウォッチを見つけたか・・・
リータにとっては、久しぶりの楽しい話となった。
「じゃあ、また明日ね」
「うん。また明日!」
そして・・・
「学校は、行ってみてどうでしたか?」
「・・・うん、何か安心したよ。みんな優しそうだったし」
「安心できたならいいんですよ!」
「それに、初めてのお友達もできたし・・・」
そう言うと、リータは机の上に置いてある、
ケータが貸してくれたハンカチを見つめる。
「洗濯したから、明日返さなきゃね・・・」
「よかったじゃないですか、いい人で。見た目とかは普通でしたけども」
「うん。本当にそう・・・」
その時、水音を立てないように
ミズニャンが水槽から顔を出した。
ミズニャンは水槽のふちにつかまり、リータに話しかける。
「それにしても、あの子結構粋よねぇ」
「あ、ミズニャン・・・」
「粋?」
「そーそー!泣いてるリータにサッとハンカチ差し出してさ」
そう言うと、ミズニャンは何か気づいたような顔をしてリータを見る。
「・・・もしかして、リータに気があるのかもよ!」
「ミズニャン、そこまでにしておきな!」
その時、リータのベッドの上で丸まっていた
ミズニャンの姉でもあるカエンニャンが、興奮するミズニャンをたしなめた。
「いやだなぁ、お姉ちゃん。ただのガールズトークじゃん!」
「あんたのは「度が過ぎる」って言うのよ」
「(ケータくんが・・・私に?)」
「(いやいや、そんなのありえないから・・・)」
「(・・・でも、「もしかして」なんてちょっと自惚れちゃうな・・・)」
「あー、もう・・・なんだろう、この気持ち」
「ん、どうしたんですか?」
「リータ、どしたのー?」
「ううん、・・・何でもない。もう寝ちゃおっと」
そう言うと、リータは部屋の電気を消して、
ベッドに勢いよく潜り込んだ。
「「・・・?」」
エーテルとカエンニャンは、その行動に頭の上に?を浮かべたが、
「まあいいか」という顔をして、
リータと同じベッドに潜り込んだ。
朝日が昇り、カーテンの隙間から眩しい朝の光が、
ぱあっ、とリータの寝顔を照らす。
「・・・ん〜、う、む・・・」
その明るさに眠っていられなくなったリータは、
ゆっくりと目を覚ました。
「ふあ〜っ、今日も頑張るか・・・」
「・・・おはよ、ござます」
「おはよう、エーテル。」
そして今日も、一日が始まる。
教室のドアを開け、ランドセルをしまい、
とことこと席に移動する。
「あっ、リッちゃん。おはよう!」
「おはよう、ケータくん。・・・あの、これ」
そう言い、リータは借りていたハンカチを渡した。
「・・・昨日は、ありがとう。」
「いや、全然大丈夫だよ!」
そう笑うケータを見て、リータは薄く笑った。
「ケータくんって、ほんと優しいね。」
そうリータが言うと、ケータの顔が一気に赤くなる。
「・・・どうしたの?顔、赤いけど・・・」
「い、いや、何でもないよ!」
「そう?」
「うん!全然大丈夫!」
「それなら、いいけど・・・」
「・・・あっ、リータちゃん!ちょっといーい?」
「え、あ、うん!」
そう言うと、リータは呼ばれた方へ歩いていった。
「・・・惚れましたか?」
「え゛」
ケータが声に驚いて顔を上げると、
そこにはニヤリとした笑みを浮かべたエーテルが、
ふわりふわりと浮いていた。
「分かりますよ、リータは可愛いですもんね!私も、生きてて男なら今頃告白してます。」
「・・・え、ちが、ちょっと!」
「隠さなくたっていいじゃないですかー。心配しなくたってリータに言ったりしませんよ。」
「それに、その方が安心できますから」
「・・・安心?」
「実は、リータは・・・」
エーテルは少しつらそうな顔で、リータがここに来た経緯を語った。
「・・・」
「昨日リータが泣いてしまったのも、それにかかわることなんです」
「リータは、今までハンカチなんて貸してもらったこともないし、優しい言葉をかけてもらったこともない。」
「だから、ケータさんと出会えたことは、リータにとってとても嬉しいことなんですよ」
エーテルはケータの肩を両手で軽くつかんだ。
「・・・お願いです、リータの友達でいてあげてください!」
「こんな事を頼むのはおかしいって思ってます。・・・でも、あの子をこれ以上泣かせたくないんです・・・」
「・・・大丈夫だよ、エーテル。」
「えっ」
「俺は、どんな時でもリッちゃんの友達だよ。・・・約束する。」
そう言うと、ケータはニコっと笑った。
「ありがとう、ございます・・・これで一安心です・・・」
エーテルは、ホッと胸をなでおろした。
その時、エーテルを探していたリータがやって来た。
「エーテル、こんなところに居たの?いなかったからビックリしちゃったじゃん!」
「・・・ああ。ごめんね、リータ。ケータさんに聞きたいことがあってね」
「聞きたいことって何?まさか変なことじゃないよね?」
「当たり前じゃないですか!ちょっとした事ですよ。」
「・・・まあ、いいや。フミちゃん達がドッジボール誘ってくれたんだ。一緒に行こ」
「はいはい、すぐ行きますね。」
そう言うと、エーテルはリータの後ろについて行く。
しかし途中で振り返り、人差し指を口元に当てた。
「今の事はリータに内緒ですよ」と言いたげな顔をして。
「これで帰りの会を終わる。気を付けて帰るように!」
ぽつり、ぽつっ。
ザアアアアアア・・・
「・・・あっ、雨降ってきちゃったね。」
「朝、そこそこ曇ってたもんね。」
「えー・・・私、傘持ってないよー、どうしよう。」
「一緒に相合傘して帰るー?」
「(雨・・・?)」
『雨』と言う単語を聞いた瞬間、
リータの体がぞわああっ、と粟立った。
顔が真っ青になり、耐えるように肩で息をする。
ばれないように平静を装ってはいたが、顔が真っ青なままなので
隣席のケータには、すぐにばれてしまった。
「リッちゃん、大丈夫?顔色悪いよ」
「・・・大丈夫、だよ」
「リータは雨が嫌いなんです・・・。雨だけじゃなくて、なぜかプールなど水関連のものが少し苦手で。」
「不思議ですね」
「雨や水の音を聞くと、何でかわかんないけど・・・少し鳥肌が立っちゃうんだよ・・・」
「ええっ!?・・・それ、かなりやばいよ!早く帰った方がいいって!」
「うん、そうすr―」
ランドセルを持ち、立ち上がろうとした瞬間、
リータの体がぐらりと揺れ、また椅子にぺたん、と座り込んでしまった。
「・・・あれ?」
当の本人は、今何が起こったのかわからない、と言う顔。
それを見て、ケータはこう言った。
「・・・俺、送ってあげるよ。そんな体調じゃ、絶対帰りに倒れるって!」
「いや、だいじょ・・・」
「大丈夫じゃないよ!」
そっとリータの手を握るケータ。
その顔は、恥ずかしさか少し赤くなっていた。
「俺、リッちゃんが心配なんだよ!」
「私を、心配・・・してくれるの?」
「・・・当たり前だろ?だって「友達」なんだから!」
「ね、リータ。ここは言葉に甘えて送ってもらいましょうよ。」
「本当に雨の日のリータは、凄く調子悪いんだから・・・帰る途中に倒れても、何もおかしくないんですよ?」
「ごめんね、昨日も今日も迷惑かけて・・・」
しゅんとするリータの頭を、ケータはそっと撫でた。
「そんなの、別にいいんだよ。俺がやりたいだけだから」
「・・・」
驚いた顔をしてじっと見つめるリータに、ケータは「やらかした!?」と言う顔をして、
リータの頭から手を離す。
「と、とにかく!送って行ってあげるよ。リッちゃんの家は俺の家の近くだったし」
「・・・ありがとう、本当に。」
そう言うと、リータはケータに向かってうっすらと笑った。
- 154 -
*前次#
ページ:
ALICE+