久しぶりの声
「なあ、アーロ」
スクアーロは丘の上で夕陽を見ていた。まるでアリシアがしたのと同じように同じ場所でぼんやりと夕陽を見ていた。心なしか目の前がゆらゆらと揺れる。
「お前は、もし、アリシアが帰ってくるっていったらどうする?」
アーロは尾びれをぱたぱたと振った。雨の炎がゆらりと揺れる。
「まだ信じきれねえが…もしかしたら、十年前のアリシアが…来るかもしれねえんだぁ」
(…………)
「お前は分かんねえだろうなぁ。今よりもっとずっとちっちぇえアリシアなんて」
先ほどその話を聞かされてから、頭の中は全く収集が付かなくなり、ほとんど飛び出すように部屋を出てきた。アリシアのせいで頭の中を掻き回されてばかりだ、とアーロに向けて苦笑いをした。
「アリシアが死んでから、サフランもすごく寂しそうにしてるんだぁ。俺が匣から開けてやるんだけどよぉ、アリシアの事を探す様にうろうろしててなぁ、」
(…………)
アーロがぐりぐりとスクアーロの腹に鼻先を押しつけた。
それを見てスクアーロは一瞬泣きそうに顔を歪め、すぐにぺたりとアーロの背中を撫でる。
「もう、こんな後悔したくねえ。アリシアに……逢いてえ」
銀糸に夕陽の赤が絡む。
すっと顔を整えて、アーロの目を見つめた。
「俺は、もっと強くなってみせる。あいつの為に、この誓った剣の為に、お前の為に」
立ち上がり、アーロを見下ろす様にして言う。
「アーロ、俺に力を貸してくれ。頼めるのはお前しかいないんだ」
スクアーロは真剣でまっすぐな瞳で、言い放った。
その清らけき芯の強さも、彼女に対する海より深い無償の愛も、全部が自分の主の誇るべきところだと思う。それも、この人の強さなんだと思った。
こんなにいい人に愛されて彼女はさぞ幸せなんだろうと思った。
「…ありがとなぁ、アーロ。
俺もお前を頼るから、お前も俺を頼れよぉ」
そう言われて、スクアーロの腹めがけて思い切り鼻で押してやった。
スクアーロはよろめいて、そして声を上げて笑った。
赤色に染まった空を見て
君のことを考えた
アリシアの部屋に入ってみた。いや、別にいやらしいこととかやましいこととかそんなのをするつもりじゃないからな。
あの後ルッスーリアが「ご飯よぉ〜」なんて普通に迎えに来て、俺はおとなしく帰って飯食って今に至るわけだが。ボスにあの事を聞かされてから、絶望感が吹っ飛んだ感じがしてならない。この世界のアリシアはもう存在しないのに何故かすごく満たされて、生きていけそうな気がする。
そして、何故かとてもアリシアの部屋に入ってみたくなった。アリシアを部屋に呼ぶことは数え切れないほどあったが、俺がアリシアの部屋に入るなんてほとんどなかった。
勝手に入ったことを許してくれよ。
そして感想としては、なんだか入っただけで懐かしくなる匂いがした。優しいアリシアの匂いがして、無償に抱きしめたくなった。あー、もうダメかもしれねえ、
「……ん?」
机の上に散らかった本、部屋自体は綺麗なのに何故か机の周りだけはごたごたしている。なんだこれは。そこだけ違う世界のように汚い。日本語で書かれた本からイタリアの地理的な本、吾輩は猫失格の夜と書かれたエセモノの匂いしかしない本など。
一つ、手にとって見た。それは「クレームの多い料理店」
・・・どんな本だよ。
元から趣味だったことは知っていたから驚きはしないがスケッチブックと絵の具。絵を描くことが好きだったはずだ。天のアリシアに謝って、それを開く。まるで写真のように描かれたヴァリアーの日常風景。似顔絵も描けたのかこいつは。ベルと俺がゲームのコントローラーを握りテレビに食いついている奥で、ソファーに座りあくびをするボス。その向かいでベルに指示をするマーモン。それを見て笑うルッスーリア、レヴィ。そしてゲームのリセットボタンを押そうとしているフラン。
現在も未来も混じった絵だが、俺らの関係に過去も未来もなかった。いつだってバカ騒ぎしてスマブラだフレランだってゲーム大会みたいなもんで、走り回って叫んで笑ってキレて、ガキみてえなもんで、暗殺部隊の威厳なんてアジト内では皆無だった。いつだって笑ってた。
それが、お前がいないだけでこんなに静かだ。わがまま王子もペーペーガエルもオカマも変態もあのザンザスだって大人しくなっちまう。
「お前は気づいてなかったかもしれねえけどなぁ、お前は俺にも、俺らにとっても大切な存在だったんだぜぇ」
そして俺は、雨が降る中、走ってアリシアの眠る場所に行った。
+++
行くと、なぜか棺桶が空いていた。
中に、アリシアは居ない。
「どぉいう・・・事だぁ・・・?」
ガサッ
草むらで音がして、スクアーロは振り返った
「うぅ・・・ここは何処なのですか・・・しかも俺なんで棺桶に・・・・」
「アリシア・・・かぁ?」
そんなことを問わなくても、アリシアだった。
証拠に、
同じ、長い黒髪
胸にかかっている鮫の牙のお守り
腕にかかっている飾り
すべてにおいて、一緒だった。
がばたばたと激しくなってきて、庭の緑色がざわめく。風が出てきた。まさか本当にユーレイじゃねぇだろうなぁ、と思ったのもつかの間。草陰から真っ黒な長髪を湛えた、背のちっさい日本人の女の子が出てきました。首には鮫の牙のペンダント。間違いない、アリシアだ。雨に濡れて服や髪が肌に張り付いて、きょとんとした顔で辺りを見回してて、見た目は中学生か高校生くらいだ。
「棺桶・・・・?なんで俺が棺桶から出るんだぁ?ところであなたは?」
「アリシア・・・かぁ・・・?」
「りょ?なんで俺の名前を?もしかして・・・スクアーロ?」
「!!」
なぜか知らないがそばに居たフランもびっくりしている。
(いや、ミーはアホロン毛隊長の泣く姿見に来たんでーbyフラン)
(さよーですかby柚留)
は?どういうことですかー。しかも隊長は目を見開いて驚いてるし。なんかヘンです。
あれ?これってまさかフラグですかー。
まさか。
「スクアーロ・・・?」
「………アリシア…?」
まだほんのり湿った黒い髪の女の子がでてきて、それを見てまた隊長が驚いて。アリシア先輩に似た女の子もすげえビックリ!って顔をしてて、良く見ると涙目。あー、泣いちゃったんですかねー。
しかも隊長まで瞳揺るがせて、目細めて、
「…アリシア」
数秒見つめあった後、隊長が倒れこむようにその女の子に腕を伸ばしてぎゅううううーってしましたー。…………うそだろー。
こいつが、アリシアセンパイ?
こんなぺったんこでキュッキュッキュッながきんちょが、アリシアセンパイ?っていうか今のアリシアセンパイもキュッキュッキューなカンジですけどー。
あ、だから、どっかでみたことあるよーなカンジがした訳かー。
あぁ、精霊のいたずら?それとも幻覚?
いや
この体温は本物だし、
この声は確かにアリシアの声
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