白に戻そう
「なんか、アリシアが居ないと凄く静かですねーぐすっ」
「てめー、泣く気ねーならぐすっとか言うなアリシアに失礼だろーが」
「センパイはマジ泣きしてるくせにー」
「っるせ!死ね!」
「ゲロッ、あー涙出てきた」
普通なら、ここでアリシアが「やめなさいっ!」と止めるが、
アリシアは、もう、いない。
「・・・なんか、静かですー」
「・・・」
フランの素朴な感情が妙に痛い。
「アリシアがいないと、こんなに寂しいんですねー。アジト全体・・・」
「うっせえっ、だまれ、クソガエルっ」
ベルが目元に袖を当てたままずっと俯いている。
泣いているのか、フランを罵倒する声も鼻声な気がした。
そして、フランも何も言わなくなった。
「・・・」
先日あれほどまで泣きはらして、もう枯れたもんだと思っていたのに。
涙というのは枯れることがないらしい。また、出そうだとスクアーロは額を押さえた。
“ね、スク。今度、日本に行こう?俺が案内してあげる!”
“スク!あーろたん出して!”
“スク、行っちゃうの?・・・俺、いい子でお留守番してるから!”
今直ぐにでも、リビングの扉を開けて
「なんちゃって!」とアリシアが来るような気がしてならない。
“俺、がんばるよ。もっと、もーっと”
“サフランの背中、乗ってみる?”
“スク!特訓付き合って!”
あの笑顔が頭から離れない。
あの声が忘れられない。
本当に愛して止まなかった唯一の女。
その時、ベルの携帯がブルブルと鳴った。ベルは首をかしげながら携帯を手に取る。
「あれ?ボンゴレの、ルーキー君からだ」
「えー、それってあの爆弾魔ですかー?」
とりあえず、通話ボタンを押した。
あぁ、泣かないで
神様、どうか
愛しい人に伝える術をください
ベルが電話に出ると、突然でかい声を出されて、驚き携帯を耳から離した。
「なんだようっせーな!」
《それどころじゃねーんだよ!アリシアが死んだって本当か!》
「は、なんだよ急に」
《っクソ!こっちも・・・十代目が亡くなられて、ボンゴレはめちゃくちゃなんだよ!
こんな時にアリシアまで!》
「・・・え?綱吉が、死んだ?」
がたん。スクアーロが急に新聞を持つ手を下ろし、テーブルに手が当たった。
固まる二人を前に、はてなを浮かべるフラン。
「おい、どういうことだぁ?綱吉が死んだ、だと?」
「冗談よせよ。なに言って」
《冗談なんかじゃねえ!十代目が亡くなられてからボンゴレはほとんど壊滅状態だ》
「な」
アリシアは知っていたが、ルッスーリアにしか話さず、スクアーロたちに、言うのを拒んだ。
というか、聞く暇さえなかった。ツナが死んでしまうのとアリシアが死んでしまうことによって、ミルフィオーレは勢力を増し、作戦は順調に進んでしまっているということか。
アリシアは、なにがあっても失ってはいけない存在だったらしい。
理由はわからないが。
「フン。頭の弱いてめーらじゃ理解できねえか」
「!」
声のするほうを向くと、リビングの扉の前に立つザンザスがいた。それはこれから獄寺の言おうとすることや現状を伝えるためといっても過言ではないだろう。
「まだ、綱吉が死んでから日が浅い。しかしこのままだとボンゴレ本部が陥落するのも時間の問題だ」
「本部がってコトは、ボンゴレがヤバいんじゃね?」
「ああ。綱吉とアリシアが死んだからな、ミルフィオーレに突っ込んでこられたらボンゴレはお終いだろうな」
《ザンザスの言うとおりだ》
「どうすんだよぉ、こんな絶体絶命の状況で」
「こちらにも作戦はあるんだろう?獄寺隼人」
ニヤリと笑うザンザスを前に、おそらく日本に居る獄寺は携帯をもって硬直していることだろう。フランやベル、スクアーロにはまったくといっていいほど状況が飲めない。
《ど、どういうことだ!?》
「自分で考えやがれ」
ぷつ、とザンザスは電話を切った。ベルの手から携帯を奪い取って通話終了ボタンを押した。
獄寺の声が途中で途切れたのがわかる。
「てめーらには今から、ボンゴレの超機密を教えてやる。耳の穴かっぽじってよく聞け」
そういえばルッスーリアとレヴィが見えない。
彼(女)らも、今ザンザスが言おうとしているこの作戦に何かかかわっているのだろうか。
「数日後、9年と10ヶ月前のボンゴレとアリシアが来る。どういうことか分かるか?」
ごくり。3人の喉が鳴った。
壊れた時計が動き出す
それがたとえ破滅の意味を持っても
そういえば、アリシアとは恋人という関係になる前から良く一緒に行動をしていた。
任務もよく一緒になって、終わったらアリシアと任務の終了を祝ったりしていた。
愛していた。
年が経つにつれて、ほんの少しだけ穏やかになった活発性と、増量した照れ屋が可愛くて仕方なかった。
すぐに顔を赤くする癖も大分治ってたからな。
日本に行った時、あいつの父親を間違ってぶっ殺しそうになって、あの時は本当に死ぬかと思った。
まさか父親だとは思わず勝負を挑んで、すげえいい勝負でつい楽しくなって、それで勝ったときに遺言のひとつでも聞いてやる的なことを聞いたら「すまないアリシア」だとか言ってそれで気づいたんだが。
あの時は本気で怖かった。父親が俺を認めずに婚約をさせてくれなくなったらとか思ったら死にたくなった。
当たり前だ自分を殺しかけた男と娘を結婚させてもいいなんて思うはずがねえ。そう思って本当に怖かった。あれほどまでの恐怖はもう二度と体験したくない。
俺がものすごい勢いで謝ったら、アリシアの父親は、
「いい腕でいいじゃないか!」なんて、怪我だらけで笑ってたがな。
アリシアが死んでしまったことは、両親には伝えられたのだろうか。
俺とアリシアがともに過ごしてきた時間は紛れもなく本物だし、嘘じゃない。
これからそういう事が出来なくなってしまうのかと思えば、本当に虚しい。一途に人を想い続けるという事を教えてもらった、たった一人の大切な人。
これからもずっとアリシアだけを想って生きていくんだろう、俺は。俺の中にはアリシアしかいないから。
「おいカス、聞いてんのか」
「あ?あぁ・・・聞いてるぜぇ」
「フン、てめえがそんなツラしてられるのも今のうちだ」
「は?」
今までの話を全く聞いていなかった。殴られるとか投げられるとか思ったが、見下したような眼でみて笑うだけだった。珍しい。
「白蘭を倒すという考えはボンゴレの水面下で着々と進められている。
だが、ここには倒せるヤツが居ない。ならばどうする」
「・・・?」
「連れてくるんだよ。過去からな」
「・・・!」
一番の可能性を含んだ、中学生の沢田綱吉たちを連れてきてこの世界で白蘭と闘わせようと言う魂胆らしい。その考えがいいものなのか悪いものなのかは分からないが、これしかなかったということだろうか。
「で?あのケツの青いボンゴレのガキ共に任せるってこと?」
「らしいぜ。結果がどうであれ、あのガキ共が負けたりなんざしたらオレが叩き潰すのみだがな」
「どっちを?」
「どっちもだ」
くつくつと喉でどす黒く笑うザンザスは本気でヤベエと思った。頭が。
そしてその隣でにしにし笑うベルも十分変質者だと思った。
現実がここまで追い込まれていることを知らなかった。
だけれど、ここまでなら俺は、アリシアの望みどおり生き続けるしかねえ。
あのガキ共に希望を託したというのならば、俺らはそれを全力で支援しなければならないと思う。ここに居る奴らは支援だなんて綺麗なことは考えていないだろうが、それと同じことは必ずする。素直じゃないだけだ。そうなると俺はあの刀小僧を磨きあげるべきか。
「そして、そのガキ共と同じく。アリシアもここに来る」
時が止まり、心臓が止まったような気がした。
「アリシアもこの世界には必要な存在なんだろう。ヴァリアーとして、働かせる必要があるんだろうな」
真っ黒に塗りつぶされた絵画が白く戻されるような感覚に陥った。声が出ない。手が動かない口が動かない。嘘だろ。
あいつ、来るのか。この場に、俺の目の前に?
「おーい?なあボスー、スクアーロ固まってるんだけど」
「フン、ドカスが」
これが夢だったら
きっと俺は死んでしまうかもしれない
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