·····そして月日は流れて、蝉が五月蝿く鳴き始める夏の初め。
とっくのとうに子供達は夏休み真っ只中。
出久と琉音も例外ではなく、毎日のように2人で(たまに爆豪も仲間に入れて)遊んでいた。
琉音
「·····あっついねぇ、いずくん·····」
出久
「·····そうだね、琉音ちゃん·····」
帽子を被ってもまだまだ暑い夏の日差しにグロッキーになりそうになりながらもお互いの手は繋いだままで、2人はとことこと駄菓子屋への道を歩いていた。
琉音
「いずくん、あのねー、いちごのアイスがあったらわたしと半分こしない?」
出久
「いいよ、僕もお菓子買うから琉音ちゃんのアイスと半分こしよ!」
琉音
「·····うん、そうしよ!」
そうして駄菓子屋に着いた2人は、自分の欲しい物を探して店の中をキョロキョロと見渡す。
·····すると琉音は、あるものに視線を奪われた。
それは——レジ横にちょこんと置かれた、おもちゃの指輪の入った箱。
ほとんど売れてしまったのか、ほとんど空白の箱の中に残っているのは·····
少し濃い目の緑色と薄いピンク色のプラスチックで出来たチープな宝石がついている、いかにもおもちゃな指輪が2つだけ。
琉音
「·····いずくん、見て見て!これ、すっごくきれい·····!」
·····それでも、小さい子供には少し手が出しにくい値段でそれは売られていた。
出久
「琉音ちゃん、これほしいの·····?」
琉音
「んー·····ほしいけど、買ったらアイス買えなくなっちゃうから、あきらめる·····」
そう言いながらも残念そうに、何度も振り返りながらアイスを買う琉音。
それを見た出久は1度自分の財布の中を覗き込み、その後指輪の値札と財布の中を交互に見つめると、
もう一度だけ値札を見て、それからぎゅっと財布を握りしめた。
琉音
「·····あれ?いずくん、お菓子買わないの?」
出久
「!·····ぼ、僕まだ決められないから、琉音ちゃんは先に琉音ちゃんちに行っててくれる?」
琉音
「う、うん·····いいけど·····アイスがとけちゃわないうちに来てね?」
出久
「わかった!」
・
・
・
琉音
「·····いずくん、まだかなー」
もうとっくのとうに半分食べたいちごアイスを冷蔵庫に入れたあと、琉音は縁側で足をブラブラと揺らしながら出久を待っていた。
·····すると、何かの入った小さい袋を大事そうに抱えた出久が庭にやってきた。
出久
「·····ごめん、琉音ちゃん·····おそくなっちゃった·····」
琉音
「もー、いずくんおそいよぉ!いずくんの分だけ残してもうアイス食べちゃったよー」
琉音がそう言って出久に近づくと、琉音はあることに気がついた。
琉音
「あ、あれ·····?いずくん·····どうして、そんなにキズだらけなの?」
出久は腕や足に、琉音と一緒にいた時には無かったはずの擦り傷があちこちに出来ていた。
気づけば出久の目元にはじんわり涙の玉が出来ていて、ずびずび、と鼻水をすする音も聞こえる。
その様子に慌てた琉音が急いで出久を縁側から自分の部屋に上げ、部屋でいつもと同じように治療をしている間に出久はポツポツと経緯を話し始めた。
出久
「·····じ、実は、あのゆびわ·····琉音ちゃんにプレゼント、しようと思って·····」
琉音
「えっ!?」
出久
「急いで琉音ちゃんちに行こうとしたら、かっちゃんたちに会っちゃって·····ゆびわ、こわされたくなかった、から、がんばって、逃げて·····」
琉音
「·····そっかぁ。がんばったんだね、いずくん·····ありがとう。」
ギュッと抱きしめて、よしよし、と出久の頭を撫でる琉音。
その優しさに、出久の涙はさらに溢れ出した。
しばらく泣いて落ち着いた出久は、ふと思い出したように抱えていた袋を手元に持ってきて、琉音の前で中身を取り出した。
中には、透明なプラスチックで出来た小ぶりなリングケースが2つ。
·····その中には、琉音が欲しがっていたあのおもちゃの指輪が入っていた。
琉音
「わぁ·····!!あのね、いずくん!!わたしね、これ、すっごくほしかったの!」
とても嬉しそうな顔をしてリングケースを眺める琉音に、出久は少し顔を赤くしてぎゅっと指輪の箱を握りしめた。
·····力が入ってバラ色になった手のひらが、汗で少し湿っている。
———一度だけ、大きく息を吸って。
指輪の箱をぎゅっと握りしめたまま、顔を上げる。
そして——少しだけ間を置いて大きく息を吸った出久は覚悟を決めた顔つきで、琉音にこう言った。
出久
「あ、あのね!琉音ちゃん!!」
琉音
「·····ん?なぁに、いずくん?」
出久
「ぼ、僕·····琉音ちゃんが、す、好き·····大好き、なんだ!」
琉音
「急にどうしたの?·····わたしもいずくんが大好きだよ?」
出久
「そ、それでね·····ぼ、僕、大きくなったら·····ぜったいオールマイトみたいなヒーローになるから·····強いヒーローに、なるから·····!!!」
「·····大人になったら、僕のお嫁さんになってくれる?」
「·····いいよ?」
「えっ!?」
キョトンとした顔でOKした琉音に、出久はあっけに取られたような顔をする。
出久
「·····い、いいの·····?」
琉音
「だっていずくん、大人になったらわたしのことお嫁さんにしてくれるんでしょ?」
「·····そしたら、大人になってもずっと一緒にいられるね!」
にっこり笑って言う琉音に、出久は顔をさらに赤くした。
琉音
「あのね、あのね!大人はけっこんするまえに「こんやくゆびわ」っていうのをするんだって!このゆびわを「こんやくゆびわ」にしよーよ!」
琉音はそう言うと、緑の指輪が入ったリングケースを開けて、中の指輪を取り出した。
琉音
「·····じゃあわたし、「こんやくゆびわ」はこっちのゆびわがいい!」
出久
「えっ?琉音ちゃん、ピンクのほうが好きだったんじゃ·····?」
琉音
「·····んー、そうだけど、わたしはみどり色のがいいの!」
「だって——みどり色は、いずくんの色だもん!」
琉音はそう言うと、
指には少し大きくて、するりと動いてしまう緑色の指輪を——左手の人差し指にはめた。
琉音
「やっぱり、すっごくきれい!·····いずくんにもゆびわ、つけたげるね!」
出久
「うん!」
そう言うと琉音はピンク色の指輪を、出久の左手の人差し指にはめた。
出久
「·····琉音ちゃんの色だね」
琉音
「えへへ、そうかな?」
出久
「うん!」
2人の指に2色の薄い光を灯す指輪。
それを見た琉音はまた嬉しそうな顔をして、キズだらけの出久の頬にキスを落とした。
小さな指には少し大きくて、はめる場所もどこかちぐはぐで。
——でも、二人はそんなことを気にしなかった。
“同じ指に指輪をつける”——それだけで、十分に特別だったから。